#4
どうやらベッドに倒れ込んだらしかった。安心して息を吐くが、すぐに身動きが取れなくなる。衣笠が俺に覆いかぶさるようにして倒れ込んできたからだ。
「んっ……んう、」
かろうじて衣笠が息を吐きだす音が聞こえたが、それもすぐにわからなくなった。何も見えないが、衣笠に舌を絡められているのはわかる。もう手は自由になっているし、ハンカチを外すことだってできたけれど、どうしてかできなかった。
衣笠が目隠しの上から俺の目元に手のひらを当てる。人肌の温かさが伝わってきて心地いい。
「っ、ふ……ん、ぁ」
「はぁ……」
もぞ、と衣笠が動き、俺の素肌に何かが当たった。たぶん、手だ。ちょっと冷たくて、びくりと震えてしまう。俺が震えたのを見て、その手は止まった。唇を食んで、衣笠が離れていく。目元を覆っていた手も離れて行ってしまって、俺は慌てて手を伸ばした。
この視界を奪われた状態では、身体に密接していないことのほうが不安が大きかった。当たったのはなんだろう。衣笠の身体に手が触れる。ちょっと安心して服をつかんだ。
「っ……か、かわい」
「……? み、見えないんだけど……」
「そうだね」
「な、なに? 何してる? いがさ」
「うん」
返事が返ってくる。ちょっと遠い。ベルトに手をかけられ、ズボンを下ろされた。掴んだ衣笠の服だけが頼りで、思わずぎゅっと握りしめる。今、衣笠がどこにいて何をしようとしてるのか、どこを見ているのかもわからない。見られてるのだろうか。わからない。
俺、今どんな顔してる? 目元を隠されては見える箇所など限られる。衣笠から見て、俺がどんな表情をしてるかはわかるのだろうか。
は、と息を吐き出す。唇を噛み締めた。
「っ」
さぁっと衣笠の手のひらが臍の下辺りを撫でていく。その触れるか触れないかのもどかしい感覚にひくり、と体が跳ねた。
衣笠が何も言わないせいで、その存在はかろうじて掴んだ服と微かに感じる体温でしか認識できない。つい出そうになる声を必死に飲み込んだ。視覚以外の感覚が研ぎ澄まされてしまったせいで、服が擦れる音だとか、ベッドに染み付いた伊笠の匂いにいつもより過剰に反応してしまう。
「……っ、ふ、ぅ」
一向に何も喋ろうとしない衣笠に不安になって、俺はベッドのシーツを握りしめて顔を埋めた。息を吸い込むと衣笠の匂いが入り込んでくる。少し、体の力が抜けたとき、くちゅり、と音が聞こえて何かがちんこに垂らされた。
「……っ、つめた!」
「あぁ、ごめんね。たぶん、すぐ熱くなるはず」
声を抑えて、囁くように言う。下腹部を撫でたり押したりしていた大きな手が、下につーっと移動した。感覚がそこに集中して、だんだん熱くなってくるのがわかる。じわじわと張り詰めていくのが自分でもわかるのに、衣笠は直接俺のモノに触れるわけでなく、ただぎりぎりのところを撫でていくだけだった。
「っ……、は、っ」
マッサージでもするかのように、優しく、撫でられる。
熱い。なんか、すごく熱い。じんじんする。身じろぎをすれば、布の擦れる音がして、衣笠の指が俺の頬を撫でていった。
「ふ、ぅ……っん、ぁ……お、おま」
「きもちい?」
わからない。だって、触ってくれないじゃん。今触られたら、たぶん気持ちいい。つい腰が揺れた。
「っは……は、ぁ……ん」
「すごい濡れてる」
「ん、っ……お、お前が、なんかっ……垂らしたろ!」
「うん。温感ローション。友達がくれた」
どんな爛れた人間関係だよ。なんつーもん友達にあげてんだよ。やっぱわかんねえ。陽キャのノリこっわ。
「はぁ……はっ……」
「ひくひくしてる」
「っ、見んなっ」
「……」
ふいに、衣笠の手が離れていった。ずっと掴んでいた衣笠の服も離してしまったせいで、俺は焦って腕を伸ばした。何も掴めるものがなくて、彷徨うように左右を行ったり来たりする。
「いがさ……、ちょ、ねぇ……」
「……っ」
「ぁ、あ、っんん…っ!」
唐突に握られて、びくびくと腰が揺れた。もうずっとソコは敏感になっていたらしい。ちょっと握られただけで、俺の腰はしばらく痙攣を繰り返して止まらなかった。恥ずかしい。あとちょっと擦られたら、もう出てしまいそう。
「や、やめ……っ、やばい」
「やっぱり、見えないほうが敏感になるんだね……斎間くん、可愛い」
そんなことない。そんなこと、ない? いや、もうわかんないや。衣笠の顔が見えない。どんな顔しているのかがわからない。なんか怖い。ぐちゅ、と音がする。
「あっ、あ、ぁ……っひ、」
やばい、やばい。なんかヤバイ。ほんのちょっと扱かれただけなのに、もうイく寸前みたいに腰が揺れた。気持ちよさが大きくなるほど、何も見えないことへの不安と恐怖も大きくなる。俺は体を捩って衣笠を探した。勝手にいじられて、一人で善がって。それじゃ何かが満たされない。
「いがさっ……!」
「っ」
きゅ、と手が握られた。熱くて、少し湿っている。ようやく触れた手をぎゅっと握りしめて、俺はその手を引っ張った。
「んっ」
衣笠が俺のほうに倒れ込んでくる。その拍子に止まっていた俺のモノを握る手も動いて、目の前がチカチカした。いや、真っ黒なんだけどね。真っ黒なのに、スパークするみたいな感覚があった。やっと全身に衣笠の熱が流れ込んでくる。
「っ……、い、衣笠……っ! これ、と、取って? 取って、いい? 顔、見えな……っ」
「……っ、かわい、なにそれ。かわい……斎間くんかわいい」
取れって言ってんのに、衣笠は取ってくれなかった。代わりに口の端を舐められた。開きっぱなしだった俺の口から唾液が垂れてる。恥ずかしい。
「い、衣笠……! やだ、これ……っとって、取ってって……っんぅ」
だんだんと俺の声も涙声みたいになっていった。だって、これ、すごく怖いんだよ。ぐちゃ、ぐちゃと手が動かされる。腰とか、太ももとか、なんかいろんなところが痙攣してるし、しかも全然止まってくれない。俺の少し鼻にかかった声がどんどん大きくなる。もう何がなんだかわからなくなってきた。お願いだから、せめて視界を戻してほしい。
「いがさぁ……っ」
「……」
唇が軽く口に触れ、離れていく。衣笠の手の動きが早くなった。心臓の音が触れた胸から聞こえてくる。
「……っ!」
急に明るくなった視界は、あまり焦点が合わなかった。だけど、衣笠の存在を認知した瞬間、俺はついへらりと笑ってしまった。衣笠がどんな顔をしてるのかもわからないけど。
「っ、」
「――っん!」
視覚はやっぱり暴力だ。衣笠の黒い目にようやく焦点が合った時、図らずも衣笠の手の中に限界まで高められた欲をぶちまけていた。
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