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ある意味、タイミングもあったのかもしれない。おばあちゃんが入院することになり、実家がてんやわんやで、それに乗じて俺も少しの間帰省していた。
自転車で転倒し救急搬送されたというばあちゃんは、行ってみれば意外と元気で、俺の顔を見ればベッドの上で跳ねて喜んでくれた。
バイトのシフトはやむを得ない理由で、ということで休みをもらい、俺は地元で有名な美味しいお菓子を音牧さんへのお土産に携えて、次のシフトに備えた。
大学近くのアパートに帰る途中、山田に連絡をすると珍しくすぐに返信が返ってきて、これまた珍しいことに駅まで迎えに来てくれた。第一声はラーメン食わせろだったけど。
「休んでた間のノート見せっからさ」
「マジ? 助かる。麺大盛にしていいよ」
「やった」
油がぎとぎとに光ったラーメンと体の主成分はラーメンなんじゃないかっていう常連のおっさんたち。腹回りのワイシャツがぱっつんぱっつんに張りボタンが弾け飛びそうだ。汗を飛ばしながらラーメンをすする男たちの間にはなぜだか謎の一体感というか、戦友のような雰囲気がある。両サイドをそんな猛者達に囲まれていながら、山田は相変わらず男っぽさと色気を兼ね備えたアンニュイな顔で麺を啜っていた。
「おばあちゃん、大丈夫だった?」
「以外と元気やったわ」
「よかったね」
「うん……綾乃ちゃんは? どうなってる?」
「小屋原の家、一回行ってみたけどポストは無事だったし綾乃ちゃんも見かけなかったよ」
なんだ、山田にしては気が利くな。
山田の手が伸び、ニラの入った壺を手に取る。俺の隣でおっさんが盛大に麺を啜った。熱気の溢れるカウンターの中で、元気のいい店員がよく通る声を張り上げる。
「てかSNS、綾乃ちゃん小屋原のことブロックしてるみたいだし」
「え、そうなの?」
「お前それくらい見ろよ」
いや、だってお前が勝手にフォローしただけだし。覗くのも怖いし。
隣で山田が派手な音を立てて麺を啜った。ずいぶん美味そうに食べるな。人の金で食べるラーメンは美味いか。
ん? てかブロック?
「え、俺もしかして嫌われた?」
「興味なくされたんならよかったじゃん」
「え、でもなんで? なんで急に?」
「さぁ。新しい男でも見つけたんじゃない? 最近はコクワガタじゃなくてメン地下にハマってるらしいよ」
「メン地下?」
「メンズ地下アイドル。お前と違ってファンサが熱いんだと」
麺を啜るのも忘れて山田を見れば、ごくん、と山田の喉仏が上下した。汁までごちそうさまってか。紙ナフキンで口元を拭った山田が流し目で俺のことをちらりと見る。目を隠すほどに長いまつ毛の隙間から、三日月型になった黒い瞳と目が合った。
「一件落着。おめでとう。電話は? まだ来るの?」
「あ、いや。帰省中は一度も」
「ふぅん。よかったね」
うん。よかった。けど。
「なんか、案外普通なんだな」
「何が」
「いやなんか、こう、解決するのが?」
拍子抜けるまである。あんなに毎日追い回して、あんな写真まで大量にとって、俺の生活という生活を監視し、コクワガタまで欲しがった始末だったというのに。
「メンヘラなんてそんなもんっしょ」
山田は肩を竦めてそう言うと、俺の器から卵をひょいと取ってぱくりと食べた。
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