3.Boy gets boy
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15時の日差しが好きだった。真昼と夕暮れのちょうど中間のような、下がりかけた太陽の温もりが心地よいから。
和室が好きだ。窓から差し込む光が畳を温めて室内に不思議な温かさと光を生み出す。まるで胎内のような空間。
中央の座卓はずいぶんと年季が入り上品に黒光りしていた。その上にはラムネの瓶のような水色の気泡ガラスの花瓶がある。活けられているのは一本の桜の枝だった。
カタン、と茶器が音を立てる。淹れたばかりのお茶を啜っている間に流れるのんびりとした沈黙だって大好きだ。お茶菓子を持ってきましたよ。まぁ、美味しい羊羹じゃありませんの、さっそく食べましょう。そんな会話でも聞こえてきそうな、この上品で静謐な空気。
色素の薄い少年の髪が西日に輝き、瞬いた目から薄茶色の瞳が覗く。一瞬視線が交叉すると穂高が目を伏せて淑やかに笑った。
「今日はいやに静かだね。学校は始まったの?」
柔らかい表情とは裏腹に機嫌がいいわけでもないみたいだった。不安を隠した図るような声音だ。そんな不安はきっとすぐに解消されるだろう。
「まだだよ。来週から」
喉の調子がいい。滑らかな声は少し甘すぎる響きになってしまっただろうか。穂高が声の聞こえた方向を正確に見やって視線を上げる。
――よく見えている。
その様子に満足気な笑みが零れたが、それは少し不自然だったかもしれない。金色にきらりと光ったその瞳に笑いかけて、湯飲みに手を伸ばす。啜ってみたら思いのほか熱くて舌を火傷してしまった。思わずベッと舌を出して空気にさらす。顔を顰めて、そのまま湯飲みを元に戻した。
こんなものをいつも飲んでいるのか。
座り慣れない座布団の上で足を崩した。正座は足が痺れてしまって長時間はやってられない。机の下で暴れた足がガタンと音を立てたが、幸い穂高が何かに気が付いた様子はなかった。
のんびりとした空気が部屋全体に満たされている。気持ちがいい。背後の窓は閉められていたが、鳥が鳴くのが聞こえてきた。
「宿題は全部終わったの? ああいうのって忘れると怒られるんでしょ?」
「うん、大丈夫」
「ふぅん……ねぇ櫻、今日は何もないの?」
何も?
「あぁ、ない」
「そっかぁ……春の花って短命だよね」
あぁ、花のことか。
花瓶に差された桜は確かに昨日持ってきたものだ。もう枝だけになってしまい、春らしさはなくなってしまっている。ふいにお腹が音を立てたが、なぜだかは分からなかった。
「桜はまだ見頃? 八重桜が咲いたらまた持ってきてほしいな。花がいっぱいついてるやつ。ふわふわで気持ちよくて好きなんだ。海棠も好き。あとは、チューリップも好きだよ。花びらの感触が独特で、食べたらおいしそうだよね」
「…………」
かいとう。ちゅーりっぷ。口の中で復唱して目を伏せる。
「櫻?」
「持ってくるよ」
「えへへ。楽しみにしてるね」
にこりと歯を見せて笑った穂高に曖昧に笑い返す。手のひらにはじわりと汗が滲んでいた。指を開いて見て見ると、汗が光を反射しててらてらと光っている。
意図したわけではないが、なぜか自然と視線がすぐ横に向いていた。1メートルほどしっかりと距離を取った場所に、穂高とは印象の違う少年が座っている。真っ黒な瞳は今にも噛みつきそうにこちらを睨んでいた。
意思の強い、真っ黒な瞳。生命力に溢れたこの光は生来、穂高の苦手とするもののはずだった。だからこそ、綺麗だと思い惹かれるのだろうか。
さくら。櫻。春の花と同じ名前だ。
穂高の大好きな男の子。手中に収めたいと願ってやまない友人。穂高が知りたがり守りたがり閉じ込めたがった宝物。うっかり食べてしまいたいとさえ思う者。いつだって穂高の中心にいることのできる人間。
眩しい。
穂高はお前と一つになりたいと言う。あぁ、櫻だけじゃない。三人一緒だ。
生意気な少年に笑いかける。そういえば初めて感情を与えてくれたのも君だったね。
穂高の口にすることは決まって真実だ。
そういうふうに出来ている。
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