第3話
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「お前ふざけんなよ夏樹!あいつと知り合いだったのか!?」
「あいつって誰よ」
「だからあいつだよ!成瀬!」
昼休み、いつものように弁当を食べに無人の物置きと化している旧男子更衣室へ入るや否や、俺は夏樹に掴みかかった。
あの男、昨日停留所で鉢合わせした男。教室へ入った途端、マスク暑くない?だとか、麦原って実はすごい色白なんだね、とか夏樹と仲いいよなとか、やたらと絡んできたのだ。もちろんクラスメイトはびっくりしていた。
昼休みは教室から消え、体育の授業でもマスクを外さない。そのうえ一言もしゃべらずガンを飛ばしているような男に話しかけるような強者は、いままで一人としていなかったのだ。
「ああ、成瀬?まぁ委員会同じだからな」
「絶対初対面みたいな反応してたろお前!」
「別に特別親しいわけではないけど」
この野郎、俺がどんなに怖かったかも知らないで。
八つ当たりともいえる怒りを、マスクを外して夏樹に爆発させた。
「俺は!昨日!あいつに顔見られたの!しかもすっごい今日は顔見てくるんだよぉ。俺マスクしてるのに、マスクしてるのに…」
「そんな泣くなよ。別に俺の前じゃマスクなしでも大丈夫じゃねぇか」
「夏樹とあいつは違う[V:8252]」
どうして幼馴染とどこの誰だか分からない奴を一緒にできるのだ。成瀬は俺の目なんて見ようともしないで、興味津々な様子で俺の目から下をじっと見てくる。マスクをしてるというのに、その下にある鼻や口をまるで透かしているかのようにじっとりと眺めてくるのだ。
「もう嫌だ。帰る」
「まぁまぁいい機会じゃねーか。むぎに興味持ってくれてるなら友達になれるかもしれないぜ?」
「いらないよ!友達なんてなっちゃん一人で十分だ!」
「え、そう?やだ嬉しいけど俺呼んじゃったよ」
タンタンと足音がする。救いを求めるように夏樹を見上げれば、舌をだして肩をすくめた。二年間誰にも見られることなく平穏なランチタイムを過ごしてきたこの空間に異物が混ざろうとしている。立て付けの悪いドアが軋んだ音を立てた。
とっさにマスクをつけようとしたが、さっき放り投げたマスクはもうすでに汚い床へ落ちている。
裏切られてもなお夏樹に助けを求めるように目を向けた瞬間、扉が開いた。
「なんかすごい怒鳴り声聞こえてきたけど、大丈夫〜?」
「あ、あああ…見るなあああああ!」
「む、むぎストップ!」
突如カオスと化した更衣室で、暴れまわる男三人が埃を巻き上げる。
夏樹に抑え込まれ、驚いた様子の成瀬に顔を覗き込まれパニック寸前の俺は目をつぶって唇を噛みしめた。
「……か、かわいい」
場違いな発言をしたのは成瀬だ。
薄目を開いて成瀬を見る。ぽかんとした顔の成瀬の顔が徐々に赤くなっていった。身動きの取れない俺の顔は即座に青くなっていった。
「本当に麦原だ…麦原ってこんな顔してるんだ…な、なんでいつもマスクなの?昨日も思ったけど、麦原口に力入るとえくぼできるじゃん。それすっごいかわいい……」
大袈裟なくらいのアヒル口が嫌いだった。やけに白い肌が嫌いだった。口元のホクロが嫌いだった。とんがった鼻が嫌いだった。
「え、えくぼ…?」
後ろで夏樹がうなずく。
「おれ、それ初めて知った…」
夏樹が後ろで溜息を吐いた。
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