第4話
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「なぁ麦原〜もうマスク外してなんて言わないから、俺ともしゃべってよ〜」
「うるさい」
「麦原〜だってかわいいんだもん。口むってするとえくぼできてかわいいんだもん」
「だもん、じゃねぇよ。ふざけんな」
「マスクしてると強気なのにマスク外すとすぐぐだぐだになっちゃってかわいいんだもん」
「いい加減にしろ!」
やたらと俺に付きまとうようになった成瀬は、人がいなくなったのを見計らってマスクを外せとせがんでくる。外すわけがない。こいつに心を許すわけがない。
雨の日の帰り道、停留所には俺と成瀬の二人きりだった。電車を使う生徒が大半だからか、最寄りのバス停には下校時刻をちょっとすぎた今の時間でも、同じ制服はまったくこのあたりでは見られない。
木材で組み立てられた簡素な停留所は明かりなんてなく、天気の悪い今日みたいな日は薄暗い。外の雨から隔離され、小さな声でもやたらと響いた。湿気からむんと立ち昇る黴臭さと埃の匂いが鼻を打つ。天井からのわずかな雨漏りが地面を濡らしていた。
湿度は90%を超え、もはや水槽の中のよう。気温も下がると思いきや、上がる一方だ。異様な湿度と異様な暑さに体がべたべたとする。こんな日にマスクなんてつけている奴は俺ぐらいだろう。
俺にとっての命綱であるこれさえも不快極まりなくむしり取ってやりたくなる。
でも、油断してはいけない。
そもそも成瀬に顔を見られたのだって、誰もいないのをいいことに我慢できずマスクを外してしまったからだ。そんなのこの雨と暑さのせいに決まっている。俺の不用心のせいだけではない。要するに、あれもこれもそれも全て、梅雨のせいである。
なんてとんだ責任転嫁だ。
「うわ、なんださっきから俺の頭ばっか狙い撃ちされるな」
頭を押さえ天井を見上げる成瀬はちょうど雨漏りの位置と被っているらしい。横を見たらただでさえ天パでふわふわの髪の毛が湿気で爆発していた。
「っふ…お前髪の毛…」
思わず吹き出したら、びっくりしたようにまじまじと見つめられた。マスクをしているとはいえ、こんなものただの薄い繊維に過ぎない。もう何度か素顔を見られているとはいえ怖いものは怖いのだ。
「む、麦ちゃん…かわいい」
「は、はぁあ!?ちょ、おまマジでなんなの?」
成瀬は細目で常に笑っているように見えるが、目を開くとこいつも大概目つきが悪い。目を見開いて無言でじりじりと距離を詰めてくるのに恐ろしくなって反射的に立ち上がった。
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