ネオンの微熱
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インターン二日目は昨日よりも早めに終わる予定になっていた。晴れていたら外はまだ明るさの残る時間であったが、どんよりとした天気ではやけに暗かった。別段強いわけでもない雨が降り止まず靴を汚していく。どこかで雨宿りでもしていきたかった。
終業後、まず探したのは木下だ。木下ほど華奢な男もそうたくさんいるわけでもない。おまけにあいつは顔がいいから、探す手間はそれなりに省ける。木下の所属先は俺の所属先と違い、学生は女子が大半を占めていたようだからなおのことだ。
女子に囲まれ、張り付けた笑顔をひくつかせた木下は他の数少ない男に妬むような視線を向けられていた。愛想よく接しているが、見え透いた女子の下心にはうんざりなのだろうか。次から次へと質問攻めに会っている木下の愛想笑いもそろそろ限界になっているのか疲れが見える。
俺は小さな集団の中に埋もれるようにいる木下に向かって大股で近づいていった。
「木下!いったんホテルで荷物受け取らなきゃだろう。新幹線の時間もあるしもう行こうぜ」
特に何も考えてないありそうな嘘を並べ、中心にいる木下まで声を届かせる。女子の高い声にかき消されない、それなりに腹から出した低めの声が出た。
俺に気づいた女子たちがわっと退いた。びっくりしたように俺を眺めている。せっかくなので愛想のいい木下を見習い、女の子たちににっこりと笑って見せた。目線は一気に木下から俺へと移った。
有無を言わさず木下にぶつかるように近づくとそのまま流れるように駅へ向かう。後ろでキャーキャーと話す女子の声が聞こえていた。
「ほら見ろ、ただ愛想笑いしてるだけじゃ駄目なんだよ」
「お前の場合愛想笑いがどうこうのレベルじゃねぇだろ。あんな軽々しく近づけないオーラ普通出せないし、ただの一般人にそんなスペックねえって。ほんと顔だけはいいよな」
隣でぶつくさ言っている木下は、それでも最後にはありがとう、と言ってくれた。
「なあ今日時間ある?」
「今日は知り合いの店に行く」
「……」
東京に来てから、昨日初めて瀬津に連絡を入れてみた。用件は簡単だ。単純にインターンでこっちに来てるから暇ができたら飲みにでもいかないか、と。結果はいつもと同じ。返信は返ってこない。
多分あいつはもう俺の連絡先は消してるんだろうなと思う。それか分かっていて見ないのか。連絡が来ていることを知っている上で無視をするより、それ自体が目に入らない状態にするほうがよっぽどストレスが少ない。まあきっと消してるんだろう。
でも瀬津と連絡がつかないのは俺だけじゃなく笹山も一緒だった。笹山には悪いが、俺にはそれが唯一の希望だ。笹山には悪いが。
「……今日は、だから、知り合いの店に行く」
不貞腐れたように木下が繰り返した。もう少し押し切れないかなーと懇願するような視線を向けると木下が目を逸らした。これはもうちょいでいける。心の中で小さくガッツポーズをした。
「……いいよ、もう。好きにしろよ。来たきゃ来いよ。その代わり帰りは一人で帰れよ。俺明日までいるから」
「っふー!ありがとな。あとちなみに俺も明日返る予定なんだけどな」
「はあ?ふざけんなよ、時間ずらして帰れよ」
「へいへい」
今はとにかく洗いざらい話して考えたい。行動におこすための何かが欲しかった。あくまで俺の事情なので、犠牲になってくれている木下クンには申し訳ない気持ちだが。
「はぁーお前に振られた話をしに行こうと思ってたのに。変に樋本と付き合うことにならなくて本当よかった。俺普通に無理だよ、こんなゲスな童貞」
「おい一言余計なんだよ。この隠れビッチ」
「顔はドンピシャなんだけどなぁ〜性格も表のままだったら最高だったんだけど。あと俺はビッチはビッチでもよくできたビッチだから。上品なビッチと呼べ」
「最高だな、上品なビッチ。でも完璧を求めちゃいけないよ。人それぞれストーリーがないと面白くないだろ」
俺はこんな自分を大して好きじゃないけれど。自分も好きになれない人間が他人を好きになれるのか、とかよく聞くけど結局はどうなのだろう。好きではないけれど、うらやましいとか憧れとかはあるかもしれない。わかりやすく言えば妬みだ。
別にそれが好きに変換されてもいいも思う。ないものを求めるのはどこもおかしくない。
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