ネオンの微熱
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日曜日のインターン後、一度ホテルでスーツから普段着に着替えてから、俺は待ち合わせまでのちょっとした時間をなんとなくぶらついてつぶしていた。
瀬津も日曜日まで研究室で作業していることは少ないと言っていたから早めに来てもらうこともできたが、俺の都合で煩わせるのも悪い。
なんとなしに新宿周辺をただ歩く。飲み屋街のネオンの光が眩しかった。こんな時間になっても人の多さに田舎者はびっくりだ。そもそもあちこちで光る明かりのせいでまったく暗くなんてない。屋台の立ち並んだお祭りくらいじゃないと味わったことない世界だ。看板が足元から頭上までびっしりと立ち、それぞれがけっして上品とは言えない光で夜を明るく彩っている。
居酒屋だけじゃなくガールズバーなんかのキャッチャー。若者であふれかえる流行りの店、居酒屋から出てくるスーツ姿の会社員、派手な服にけばけばしいメイクで座り込みタバコを吸う若い女とあたりを取り巻く男たち。
チカチカと光るネオンの影で人目につかない路地裏にはゴミが散乱し、煙草の吸殻や雨に濡れた広告、食べ残されたコンビニ弁当が埃をかぶっていた。
東京は汚い。
そんな路地裏で抱き合うカップルと目が合ってしまい、慌てて顔を逸らす。
なんでもありなんだな、本当に。
他人の幸せそうな下の事情に垂れ込むような趣味はない。さっと通り過ぎた。気まぐれで来ることのない場所を歩いていたが、待ち合わせ時間もそろそろだ。駅へ向かいに俺はまだ通っていない通りを通り、大回りしていくことにした。
同じ新宿でもそれなりの特徴があるいくつかの通りと、どこにでも挟まるホテル。
ふとある一角が目に入った。店とホテルの間の人目につかない、ネオンの明かりの入ってこない小さな空間で、居酒屋の案内看板だけが彼らを照らしていた。
熱烈にキスをする二人を見て、どうせやんなら横のホテルにでも入っちゃえよと心の中で毒付く。
そのまま通り過ぎようとして思わず二度見したのは彼らが男同士だったからだ。きらびやかに薄汚れた大都会は、散乱したどんな価値観もまとめて包みこんでいた。
瀬津が帰ってこないのは、そんな混沌にも見える東京のほうが自分を許容してくれると思ったからなのだろうか。
そんなことを思いながら二人の前を何事もないように通り過ぎた。
「…は、先輩」
水音ともに掠れた男の声が耳に入る。思わず立ち止まった。
そんなはずはない。
必死に全否定するも胸騒ぎは収まらない。
意を決して横の二人に目を向けた。
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