ネオンの微熱


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 貪り食うようにキスをする眼鏡の男は見間違うはずもなく先週会ったばかりの入間さんで、しがみついて必死に受け止める金髪の男は宮原浩二に違いなかった。

 なんで……。
 この人、瀬津と付き合ってるんじゃないのか?

 頭にカッと血が上り、脳でも揺さぶられたような衝撃を感じた。

 目を見開いて二人を見つめたまま動けなくなった俺を、苦し気に薄目を開いた宮原さんがちらりと見て固まった。
 ばっと入間さんを引きはがし、顔をゆがめて俺に何か言おうと口を開く。その声が聞こえる前に俺は駆け出していた。

 何も考えずただ走る。誰ともぶつからないのが不思議だった。夜の新宿を全力で走る俺を、通り過ぎる人が皆振り返る。恥ずかしさなんて感じないくらい必死だった。
 ばくばくとうるさい心臓は走っているからなのか、見てはいけないことを見てしまったからなのか、もはや分からない。

 駅近くの待ち合わせ場所まで行くと、まだ待ち合わせ時間にもなっていないのにもう瀬津が待っていた。
 俺を見つけると一瞬眉を上げにこりと笑う。その柔らかい笑顔にさっき見てしまったことも忘れつい頬が緩んだ。

「ちょ、何してんのハル。なんでそんな汗かいてんの、急ぐような時間じゃなくね?」

 肩で息をし汗をかく俺を見て驚いて瀬津が俺の顔を覗き込んだ。その不思議そうな目と、宮原さんを見つめる瀬津の目が重なる。
 あの男。何を考えているのだ。思えば瀬津が浩二さんという人と電話をしていたのは高校生の頃からだ。それほどの付き合いがあるのに、何をしてるんだあの人は。

 瀬津が幸せならいい。それなら俺が何かつっこんじゃいけない。けど、これは違うだろ。瀬津は知らないのか?どうすれば…。
 
「なぁ瀬津。宮原さんと付き合ってるのか?」
「……え?」

 全力で走って来たから顔が熱い。きっと少し火照っているのだろう。息を切らしながら瀬津に聞く。
 瀬津は俺の言葉をゆっくり反芻して首を傾げた。
 
「付き合ってるんだろ」
「え、いや、ちが」

 呆気にとられた顔で慌てて否定を始めたが、そのわざとらしい反応を俺は信用出来なかった。
 頭上にぽつりと大粒の雨が落ちる。
 止んでいた梅雨の雨は、突然スコールのように降り始めた。急な大雨に通りに出ていた人が一斉に駅と店に入り始める。俺と瀬津も慌てて駅の中に引き返した。
 
「わーすごいな、急にここまで降るなんて。どうする、晴久?」
「……あ、え?」

 雨に気を取られ、瀬津の頭からは俺の質問は消えてしまったらしい。
 
「どっか店入るにもタイミング的に難しいよな。みんな雨宿りに入っちゃっただろうし」
「……そう、だな」
「……」

 瀬津は隣で何か考えるような仕草をしていたが、ぎこちなく俺の方を向くと窺うように言った。
 
「俺ん家、来る?」
「え、いいの?」

 視線には迷いが見えたが、瀬津は引きつったような笑顔を浮かべて頷いた。
 家だけは駄目、と言っていたのはもう二年は前の話だ。こう考えると、俺も結構昔の些細なことって覚えているんだなと思う。
 
「何もないし、なんならコンビニ弁当に宅飲みって感じになっちゃうけど」
「それは全然いいけど」
「そう?まぁ俺が何か作ってもいいんだけど」


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