ネオンの微熱


← 119/127 →
「ハルは……男同士で付き合うなんて想像したことないだろ」

 静かに瀬津が俺の襟首をつかんだ。まだ俺は信じてもらえてないのか。
 
「今ならまだ…何もなかったことにできるから。やめとけよ。俺なんて選ばないで。ハルはもっと…普通の幸せを望めばそれが手に入る」
「……俺はそこに瀬津がいないのが嫌だ」

 瀬津がぎゅっと唇を噛んだ。瀬津はいつも、自分の思っていることを半分も口に出さない。きっと今もそうして俺の知れないところで難しいことをぐるぐる考えている。なんだか力が抜けて瀬津をぎゅっと抱きしめて横になった。
 
「無理に答えは求めないよ」

 なんだか性急に話を決める必要を感じなくなってきた。長い間かけて想ってきた感情なら、そこに整理をつけることにも時間をかけていいはずだ。
 だけど瀬津はハッと俺を見上げた。焦ったような表情を浮かべている。
 
「ま、まって…それは嫌だ」

 わがままを言う子供のような仕草に、瀬津もこんな顔するんだなと思う。しかし何も不安がることなんてないのに。
 
「俺は待つから。焦らないで考えればいいよ」

 そう言っても、何か瀬津は焦ったように顔を青くさせていた。また俺が瀬津を追い詰めてたらそんなのシャレにならない。頭を撫でて起き上がる
 立ち上がった俺の腕を瀬津が掴んだ。振り返るとどこか怯えの見える瀬津が俺を見上げている。
 
「……つ、付き…あ、う」
「ん?」
「どうせお前、モテるんだろ…」
「はい?」
「だから…その間に心変わりされるほうが…や、やだ、から」
「それで?」
「っ…お前聞こえてただろ!」
「もっかい」

 うっわ顔赤…。あっつ…。
 腕を掴んだまま、瀬津は顔を伏せてもごもごと口を動かしている。その顔は今や真っ赤で、対して俺もそんな瀬津を見て真っ赤になっているんだろう。
 
「…だから………えと」
「瀬津」

 しゃがんで瀬津と目を合わせると、瀬津はすぐに俯いて視線を横へずらした。顔を両手で包んでこっちを向かせても目を合わせてくれない。
 汗と涙で湿った頬は真っ赤に火照っていて、たまらなく煽情的だった。
 
「俺の目見て言ってよ」
「な、なんでだよ…」
「いや、こんな瀬津激レアもんじゃん」
「知るかよ」

 じっと瀬津を覗き込むと、今にも泣きそうな涙の溜まった目で睨まれた。震える唇を開き、消え入りそうな声で付き合う、と言われる。その声は掠れていて聞き取りにくかったが、紛れもない瀬津の声で、じわじわと温かいものが全身に広がっていった。
 
「……晴久と」
「…………」
「おい、なんか言えよ」

 返事もできず固まっているとゴスッと股間めがけて瀬津が蹴りを入れた。
 
「いっっ………って」

 痛さに悶絶しながらベッドの縁に座っていた瀬津の膝に伏せ、これはこれでヤバイ、と起き上がろうとしたら瀬津の手が俺の頭を上げさせた。
 サラサラした黒髪が俺の額にかかった。熱と一緒に唇に触れた感触に目を瞠る。一瞬で離れていく熱い空気を追うように見上げると、目が合った瀬津がすぐに視線を逸らした。
 
「う、うわ…やば……」

 唇に指を当て、たった今触れた感触を忘れないように確かめた。心臓が緊張とは違う意味でバクバク波打つ。
 
「俺、今すんごい量のアドレナリン出てるよ」
「……あっそ」
「無理かも…」
「な、何が?」
「俺たぶん、瀬津と付き合ったら心臓もたない」
「本望じゃん。俺はハルのこと許さないから」

 放心したまま瀬津を見上げる。眉をしかめてつんと澄ます瀬津はこれまでにも何度も見てきた。拗ねてるときか、照れ隠ししてるときの瀬津の顔だ。
 
「死にそう…」

 悶え死ぬ。可愛すぎる。どうしよう、俺の未来が見えない。これ俺が独占していいの?世界遺産じゃない?
 
「あほ面」

 瀬津が俺を見て吹き出した。最初はくすくすと笑っていたが、そのうち声を抑えないでゲラゲラ笑い始めた。涙まで浮かべて笑いだす瀬津を見てこれでいいのかな、と思う。なんだかもう、瀬津が笑っていればそれでいい気がした。



← 119/127 →

目次
Top