番外編
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テキトーな部屋着でリビングへ戻るとソファに寝転がって瀬津が通話をしていた。おそらく宮原さんだろう。この宮原さん贔屓にはいまだにちょっと考えることがある。俺の電話はびくびくしながら出ないことが多いのに宮原さんとなればこうだ。
珍しく声を上げて笑いながら楽しそうに話している様子を見ていると少なからず思うところはあるわけで。
どすっと瀬津の足元に座った。少し驚いたようにこちらを見た。少し小声になっている。
別に気にしなきゃいいのに。向こうは俺が今いることなんてじっとしてたら気づかないし。こそこそとしゃべる瀬津に湧いた出来心でそっと服の上から腰を撫でてみた。笑えるくらい大袈裟にびくりと腰が浮いた。目を見開いて俺を見てくる。慌てて電話を切ってソファの上に正座した。
「な、なな何?何??」
「…いや、別に」
「てか髪まだ全然乾いてないじゃん」
俺の気持ちなどまったくもってわかっていない瀬津が肩にかけたタオルでわしゃわしゃと髪をかき回してくる。顔の近さに便乗して頭突きでもする勢いで瀬津を押し倒した。
「ん…?」
ぽかんと不思議そうな目で見上げてくる瀬津は流石の鈍さだ。じっと目を見つめていたが、やっと「あ」と何かに気がついたような顔をした。俺そんな欲情した顔してたかな。瀬津と一緒にいると自分の余裕のなさが恥ずかしい。
「俺、ハルのスイッチどこにあるのか分かんねーや」
呆れたようにそう言う瀬津になんて返したらいいのか分からない。それでも今こんなことをしても許されている仲ではあるよう。そのことに安心する。
「——あー…キスしてもいい?」
いちいち許可でも求めてしまうのもなんだかおかしいがどうにも怖くて聞いてしまう。でもそう言うと瀬津はたいてい呆れたように笑うのだ。
「いちいち聞かなくていいよ。好きにすれば」
好きに、とはどこまでを言うんだろう。ついさっき待とうと思ったばかりなのに、もうすでに我慢することさえ難しく思う。
ソファに押し倒したまま微妙な沈黙が過ぎる。すぐ近くで瀬津が瞬きをした。こういう雰囲気はやっぱりしてもいいってことなのか…?
思えば俺どこまで恋愛童貞なんだ。
視線をさまよわせていたらムッとしたように瀬津が俺の頬をつねった。ひんやりとした手が添えられて触れるだけのキスをされる。体中の熱という熱が顔に集まったかのようだった。湯だった顔を見て瀬津がゲラゲラと笑い始める。
「そ…んな、笑うなって」
「いや、あはは、うん。晴久変なところでうぶだよな」
「……」
そう言う瀬津は鈍感なくせして変なところで手馴れている。
「そんなこと言ってると本気で襲うよ」
思わずムッとして言い返せばすぐ下の瀬津の顔が急に赤くなっていった。
ちょっとした冗談のつもりだったのに予想とは少し違う反応にこっちまで赤くなってしまう。
なんだ、瀬津だって人のこと言えないじゃん。雰囲気も誘い方もろくに知らない俺だけど、こんなことならもっと自分からぐいぐい行けばよかったのかもしれない。
「嫌なら嫌って言ってくれれば俺はしないけど」
「…い、いやじゃ…ないです」
目を逸らしながらきゅっと俺の服を握る瀬津はやっぱり可愛かった。
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