第2話


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※嘔吐表現あります。




 午後の授業にはまるで集中できなかった。

 授業中はいいだろう、部活までに気持ちを切り替えられれば、と思っていたが、今までにもそう思っていながら学校をサボったり部活を休んだり周りに心配されるようなことばかりになっている。
 
 なんとか授業を終えた俺は、珍しく早めに体育館に行くことにした。今日は担任が出張だったからHRも早く終わった。
 
 渡り廊下を一人歩いていると、後ろからキュッキュッとこちらに走ってくる靴の擦れる音がする。

「せっちゃん、今日は早いな」
「笹山、お前はいつもちゃんとHRにでてるのか?」

 笹山は二カッと笑い俺の背中をバシッと叩いた。普通に痛い。

「当たり前だろ。こう見えて俺は文武両道な学級委員だからな」
「ま、否定はしないけど」

 部室棟の前ではサッカー部が円になってミーティングをしていた。その中心にハルがいるのを見てドキリとする。

 ハルの話を聞く部員の顔は皆真面目なものだった。苦しそうな表情でしゃべるハルの顔も、普段のハルからは想像できないような必死なものだった。風間の表情はいつもと変わらなかったが、良くも悪くもあいつの顔は常日頃真剣だ。

 ああ、やっと、やっとハルは…。

 抱え込むことは辛い。やっとハルはそのつらさから解放されるのだ。やっと…。

 そう思った時、誰が言ったか知れない言葉が響く。

 “気持ち悪いんだよ”と。

「……うっ」
「ん?瀬津?」

 胃が大きく痙攣するのを感じた。慌てて口元を抑え笹山から顔を背ける。瞬間ボタボタボタと汚らしい音が静かな渡り廊下に響いた。

 笹山がぎょっとしたように焦り始めるのが分かった。

「せ、せつ?なんだよ、お前、顔色…」
「ぐ……っんぇ」

 ああ見られちゃった。吐くとこ、見られちゃった。

 ベチベチと胃液が床を叩く。最低だな、俺。高校生にもなって廊下で吐くやつなんてそういないどころか皆無だ。汚いもんの処理、人にやらせるなんて俺とんでもなく嫌な奴じゃん。

 最悪、というのか幸いというのか、昼は結局風間に時間をとられたせいで食べ損ね、吐けるものはなかった。俺の口からはただ胃液だけがあふれ出ていた。

「瀬津、つかまっていいから、歩けそうなら保健室行くぞ。落ち着くまで待つから」
「っ…は…」

 笹山は少し顔を青くしながらも、さすがの部長だった。しゃがみこんでしまった俺の背中をゆっくりとさすってくれる笹山に申し訳なさでいっぱいになる。

「っはぁ……っは、ごめん」
「謝んなよ、体調やっぱりよくなかったんだろ?昨日も終わりのミーティングの時きつそうだった。…頼むから、休んでいいから」

 無理すんなよ。絞り出すような声に胸が締め付けられた。どこまでも俺は馬鹿だった。

「歩けるか?今日は休んで帰れ。…樋本が終わるまで待つか?一人じゃ無理だろう」
「い、いやだ!」

 弾かれたように叫んだ俺の声は廊下に反響して消えていった。思わず出た大きな声に笹山がびっくりしている。

 見られたくない、こんな姿を。きっとこれからもっとおかしくなる。

 ぞわぞわと体の内側から気持ち悪い波が押し寄せてくるのを感じる。見られたくない、こんなみっともない姿。見られたくない。

「大丈夫、ちゃんと一人で帰れるから。…ごめん、笹山」
「………分かった」

 笹山はふらつく俺を支え、保健室まで連れて行ってくれた。もはや歩いた記憶は俺の頭にはない。


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