第2話
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〇
「今週のグラビア見た?」
知らないし興味がない。
「見た見た!やっぱりかわいいよな、三田涼香!」
俺は昨日のドラマに出てた俳優のほうがいいと思う。
「あれ何歳だっけ?18?学校行くと夢が壊れんな〜あんな巨乳いねぇって、な、瀬津?」
「や、俺は筋肉一筋だから」
「うははは!相変わらずお前も夢がねえな。この筋肉フェチ」
「筋肉を舐めると死ぬんだよ」
「どんな格言だよ」
素直に女の体にみんなのように魅力を感じない、というのが本心だった。それを言ったことはないけれど。いつからだろう、クラスメイトの話についていけなくなったのは。
小さいころから好きになるのはいつも男のキャラだった。アニメだとか、ゲームだとか、漫画だとか。広い背中やたくましい筋肉のほうに目が行くのだった。
小学校高学年にもなれば、クラスの女子の誰がいいだとか、あいつとあいつが付き合ってるとか、そういう話題が増えていく。その場にいるのがなぜか苦痛だった。
仲のよかったクラスメイトから好きな女子の相談をされたり、逆に友達に今好きな人がいないか聞いてくれと女子に頼まれたこともあった。そういう話を持ち掛けられる度にもやもやは増していく。あいつがかわいいとかどうとか、俺には正直分からない。俺がおかしいのだろうか。
誰に聞くにも父さんは時間が合わなくて最近全然顔を合わせてないし、こんなこと先生に相談するのも恥ずかしい。でもこのままクラスの友達と話を合わせられずに変な目で見られるのも嫌だった。
このままだと俺がただの筋肉好きな変態みたいに思われてしまう。いや、それはもう遅いのかもしれないけど。
「早いうちになんとかしないとな」
少なくとも俺が異常ではないことを確かめたい。今はまだ好きな人だとか、出来なくていいから。俺だけが置いて行かれるのが怖い、みんなと外れるのが怖い。盛り上がるクラスメイトを見ながらそう思った。
「じゃあ瀬津!今日も公園集合な!」
「え、俺も行くの?」
「ええーなんかあんのかよ。サッカーしようぜぇ」
家に帰ったら調べたいことが…。しかもどうせそうやって遊んでても結局はまた誰がいいとか、そういう話になんだろ。
「いけたら行くわ」
家に帰ると、朝時間がなくてシャッターを開け忘れたのか部屋の中は昼間にも関わらず真っ暗だった。どうせすぐ暗くなるし、今更開けるのも面倒だったからそのまま電気をつける。机の上には父さんからの書置きがあった。
『瀬津へ。おかえり、今日は遅くなります。夜と朝はこれで食べてください』
今日は、じゃない。今日も、だ。無意識にため息がこぼれた。
最近忙しそうだな。もう少し俺が自炊とかできれば、父さんにもおいしいもの食べさせてあげられるのに。机の上に置かれた千円札を眺めながらふと思う。
紙幣の中の偉人はじっとこちらを見つめている。
「…お前も男か」
苦労したりしたのかな、例えばクラスの連中の話についていけないとか。男の体にばっか目がいくとか。なぜか無償に苛立ってその顔をくしゃりと握りしめた。今日も俺は一人だ。
でも一人も悪いとは思わない。今日だって、一人だからこそずっと気になっていたことをやっと調べられるのだ。俺はさっそく自由に使っていいと言われているパソコンを使いに父さんの部屋にに行った。
「……ゲイ?」
トップに出てきた言葉は聞いてもピンとくるものではなかったが、直感的に俺はこれなんだと悟った。なにより少なからず、俺のような人は存在していることがわかって胸をなでおろした。
「そっか。別に俺が変なわけじゃない。こういう人、いっぱいいるんだ。…よかった」
自分が他の人達とは違うのかと思っていた、そんな正体不明のものの恐ろしさが徐々に晴れていく。なんだ、俺以外にもいるんだ。俺がおかしいわけじゃないんだ、よかった。そう安心して息をはいた。
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