第2話
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友達のゲイが気持ち悪いです。
「え?」
画面をスクロールしていくと、質問サイトにそんな文章が目に入った。
やっと落ち着いてきた頭が真っ白になっていくのが分かる。
「っは、え、え?」
俺は反射的にゲイ、気持ち悪い、と検索ワードに叩き込んでいた。
動悸がする。そんなわけ…俺はおかしくなんてない…俺は気持ち悪くなんてない…。
『ゲイの友達と縁を切りたいです。』
『ゲイってオープンにしてるやつがいるんだけどまじキモすぎ』
『ゲイのクラスメイトまじで学校来ないでほしい』
「はっ…はっはぁっ…嘘だ」
マウスを持つ手が震える。パソコンの画面を凝視した。液晶ディスプレイがぶれるように見え、眩暈でもおこしているようだった。
『ゲイの友達に旅行に誘われてるんだけど断るにはどうすればいいですか?気持ち悪くてしょうがないです』
「…違う!違う!」
俺は…。俺は違う。こんなんじゃない。俺は違う、ゲイじゃない。
「俺は違う!!…嫌だ…!」
『小さい頃から女の人より男の人が好きでした。それが性的な意味での好きに気がついたのは中学生のころです。高校生の頃、好きな人に告白していじめられるようになりました。』
「やめろよ!俺は違う!」
自分でパソコンを動かしているのにも関わらず、目に入るそんな言葉たちにポロポロ涙がこぼれ始めた。
『ゲイいなくなってほしい』
気づいたときにはパソコンの画面を殴っていた。画面にヒビが入り、フリーズする。心の内からわいてでたこの破壊衝動は自分じゃ止めることができなかった。
気づいた時にはパソコンをケーブルから引っこ抜き床に叩きつけていた。何度も何度も叩きつけた。
「…っはぁ、はっ」
たまたま目に入った本棚の父の本を手当たり次第に投げつけていると、頭がぐらぐらして倒れそうになった。むなしく壁にあたった本がぱたりと床に落ちる音を聞きながら、壁をひたすらに蹴って頭を壁に打ち付けた。
「はぁっ…はぁっ…」
軽く地団駄を踏み手短にあるものをすべて倒しては投げ、踏みつけ体当たりをし、床を踏み抜くように叩きつける。
「っふ、はあっ…うぅ」
涙が止まらず顔をぐちゃぐちゃにしていることに俺は気づけない。ひたすら壁を殴り、洗濯物を引きちぎり、棚を倒し、暴れたのだった。鏡は投げつけた椅子で粉々になっていた。気づけば手は傷だらけに、体のあちこちにも傷ができている。
それでも手が痛むのも、足に破片が刺さるのも気にならないくらい俺の意識は飛んでいた。相変わらず頭は貧血を起こしたかのように揺れている。暴れまわる俺の口からは時々泣き叫ぶような奇声が漏れていた。
何時間たっただろう。
足の踏み場のなくなったこの空間で座り込み耳をふさいでいた。嗚咽がもれ、涙は止まらない。
お腹すいたな、なんて思いが頭に浮かんだとき、聞こえるはずのない鍵を開けるガチャガチャとした音が聞こえた。反射的に顔を上げると、みるみるうちに真っ青になっていく自分の顔が窓に映っていた。
「ただいま!今日は早く帰れたよ瀬津!」
「あ、あ…」
俺の頭にあるのはただ怒られる、という小学生の恐怖だ。なんて言い訳すればいいんだ、と。
「瀬津……な、なんだ…これ」
「あ、あ、違うのごめんなさいごめんなさい」
隅に座り込む俺と荒れ果てた室内を見回した父さんの顔は青くひきつっていた。
「な、何か、盗みでも入ったのか?無事か!?」
「違うって!ごめんなさいごめんなさい…!俺が、俺が…ちょっとふざけて暴れすぎただけで、」
「……」
何を思ったのか、父さんは震える仕草で俺の前まで来てしゃがみこみ目線を合わせると俺を抱き締めた。
「……ごめんな」
違う。なんで父さんが謝るんだよ。父さんが悪いことをしたんじゃない、俺がいけないのだ。
「いつも構ってやれなくて、うまいもんも食わせてやれなくて、辛かったよな。家に帰ってきても家族がいなくて寂しい思いばっかさせてるよな」
「…違う」
ごめんなさい父さん。俺は…
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