第2話
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〇
「…っは……」
目が覚めると汗だくで、ワイシャツが肌に張り付き気持ちが悪かった。あのまま制服で寝ていたみたいだ。
それにしてもひどい夢を見ていた気がする。もうどんな夢だったかなんて思い出せないけど。
止まらない汗に息切れしながら枕元にあった携帯を確認すると、夕方の5時だった。どうやら丸1日は寝ていたらしい。
枕元の水を飲み、とりあえずワイシャツと制服のズボンを脱ぎ捨て、近くにあったスウェットに着替えた。体中が汗で濡れている。制服のズボンは汗でベトベトな上、かなりシワになってしまっていた。
「こりゃクリーニングだ…」
起き上がれば自然に体が傾き、ろくに歩けなかった。きっと熱も出ているのだろう。
今回は落ち着くまでどのくらいかかるだろうか。もうすでに俺が寝ている間に学校も1日休んでしまっている。携帯にはハルと笹山からのメッセージと着信が何件か入っていた。しばらく画面を眺めていたが、今メッセージを開く気にはなれず電源を切ると投げ捨てた。
俺がこんな体質になってしまったのは小学6年生の頃だ。最初にこの発作がでた時は、家にあるものを手当たり次第に投げつけは壊した。むなしくなって、いや、正気に戻って惨状を見た直後、父さんが帰って来た。父さんはその時、自分があまり家にいられないことが俺が爆発した原因と考え、次の年海外赴任に俺を連れて行かず栄さんに俺を預ける形をとった。
あの時のことと父さんのことはあまり関係がない。しかしあの一件以来、俺が他人とどこか一線を引くようになったのは事実だ。
それからというものの、何か抑えられないほどの感情の起伏が体の不調となって表れては、不定期に発作を起こして学校を休むことが多々あった。
その理由を知っている人は、いない。
何がきっかけなのか、原因はほぼわかっているけれど、もう何年も見てみぬふりを続けている。
ゲイであることの嫌悪感。
俺について回るこの事実に耐えられなくなったとき、発作的に体調が壊れた。きっと正確には心と身体が、壊れていた。
「……晴久」
心配してるだろうな。誰よりも俺を理解しようとしてくれる男。誰よりも大切で愛しい人。
「…大好きだよ」
身体を流れる気味の悪い汗は、自分の性癖を否定しながらも男の裸を見て自慰をするいつかの自分を思い出させた。
惨めだ。俺はどこまでも浅はかで卑しい。
晴久の何を想像したのか、次第に勃ちはじめたソレを嗚咽を洩らしながらゆっくりとしごいていく。
「…ん…っふ」
目を瞑ると艶やかなハルの身体は俺に被さり、まるで体を射抜くように雄々しく光る眼が俺を見つめる。そんな妄想に自己嫌悪は止まらないが、体はますます反応してしまう。
「はっ、んぅ…はぁっ…」
嫌なのに、止めたいのに、
「ひっ…っふ、んぁ」
こんなことしたくない。晴久を汚す自分が気持ち悪い。なのに、どうしても自分の手を止めることは出来なくて。
もうグチグチと音をたてるほどに感じているソコは明らかにもっと強い刺激を求めていて、それに応えるように俺も手の動きを早める。
「あ、ん…ふぁ、いぃ…気持ち、いい」
妄想で作られた頭の中の晴久は満足そうに微笑み、次第にスピードを早めていく。震える声が漏れた。
「はぁ、はっ…あっ……っい、」
肉体的な快楽とは別の場所で、理性は泣き叫んでいる。もうやめてくれ、それ以上するのはよしてくれ、俺が、男を求める俺が壊れてしまう、と。
「ん、くっ……は、はぁ…はぁ」
最悪な気分だ。
自身の手に果てた白濁を直視してしまうと、無性に涙が止まらなくなった。ずっと顔は濡れていたから、きっと俺はずっと泣いていたのだろうけれど。
「っ…はるひさ…!」
今確かに晴久で抜いた、その事実が自分の手のひらにまざまざと存在している。始めてのことじゃないけれど、自己嫌悪は止まらない。
歯をくいしばってなんとか嗚咽がもれるのをこらえようとしたが、静かなこの部屋で俺のすすり泣く声は抑えようもなかった。
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