第3話


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 五月に発作を起こしてからというものの、あれ以来めっきり俺は学校を休むことがなくなった。どのみち今年で終わってしまうのだという実際問題にばかり目を向けて表面的に吹っ切れたようなものだ。

 毎年六月の梅雨の時期はひどい発作と重なって休みがちなのに、今年ばかりは出席率がいいものだから、周りの人間に逆に心配されるほどだった。

 笹山にはお前本当に大丈夫なのかと試合の際にやたら気を使われ、俺がリベロにも関わらず交代させるのにかなり渋っていた。ひどい扱いだ。担任には、今頑張りすぎると受験期に疲れるぞとまるで都市伝説のようなジンクスを言われ、挙句の果てには毎朝教室に入る度にハルが幽霊でも見たかのような顔で飛びついてくる。

 こればっかりは本当に心臓に悪いからやめてほしいけれど。

 「おはよ〜う」
 「うわああ!せっちゃんが来たああ!!」
 「だからうるせぇぞ、ハル。離れろ、湿気がすごくてムシムシすんだよ」

 そうやって男子のノリで抱きつかれるの、俺にとっては苦行なんだよ、とは言えないが。

 お互い無事に部活を引退し、受験勉強を本格的に始めている。今の家から通える大学は二校ほどしかないし、きっと大学が同じになることはあり得ない。ハルを好きなこの気持ちを忘れることはできないけど、こうして友達として付き合っていればこれからもハルとの繋がりを持っていられるのだ。

 それでいいのかと言われても、そうすることしかできないのだ。男同士である以上叶わないこと、そう分かっているから欲を出しちゃ駄目だと言い聞かせる。

 いつかハルに可愛い彼女ができて、いつか結婚が決まって、子供ができて。そうして幸せそうに笑うハルを見て、俺は届かない想いと叶わない幻想にじわじわと殺されるんだ。晴久に、殺されるんだ。

 いいじゃないか、それで。好きな人の側にいられて、好きな人に命を吸い取られていく。それでいいんじゃないか、と思えてきたのだ。

 「せっちゃん本当に大丈夫なの?毎年この時期あんま学校いないし、来てもフラフラじゃん」
 「うん。ハル、もうちょい声のトーン落として。頭に響く」
 「ほらぁ!やっぱり!調子悪そうじゃん!!」
 「ういぃ〜〜」

 言ったはしから大声を出すハルに頭を抱える。そもそも俺はかなりの低血圧に加え重度の片頭痛持ちだ。雨ばかりで天気の悪いこの時期が一年で一番調子の優れない時期でもある。

 「もういいだろ。出席危ないのもあるし、今年頑張らないと俺へたしたら高校卒業できないんだよ」
 「…まあ、それは困るけど」

 なぜだろうか。最近やたらとハルの過保護が増している。もちろん心配かけさせるような俺が悪いんだろうけど。

 あの日、俺が病み上がりで学校に来た日、運悪く体育の授業があった。一週間寝込んでいた体にはまだ運動は堪えたらしく、気が付いたら意識を飛ばしていた。

 怖いのはその後だ。

 俺は一体何をやらかした?

 気が付いたら枕元にハルがいて、俺を運んでくれたらしいハルに俺は一体何を言った?

 歯を食いしばっていないと、自然と震える唇が何を口走るか分かったもんじゃない。それだからギリギリと音がなるほど噛みしめていたのに、唇が象る音は本能のままにだ。あの時俺は必死に言葉を飲み込んでいたが、もしかしたらそれは全部漏れていたかもしれない。

 しかし朦朧としていたせいか、記憶があいまいで正直自分が何を言ってしまったのか思い出せないのだ。

 でもあの日以降ハルがいつにも増して俺のことを心配するようになった。


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