第3話
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「…ハル」
「ん?」
眉を上げてぱっちりとした目をさらに大きくして俺の顔をのぞき込むハル。その目は今までとまるで変わらない。
無理だ。やっぱり怖くて聞けない。そんなハルの目を見ていれば、ここで何かを聞いて墓穴を掘るほうが俺にとっては怖かった。俺とハルの間の何かを変えてしまうことの方が怖かった。
「……いや、なんでもない」
「そう?」
朝なのに灰色の空で外は暗い。もやもやとした気分を無理に飲み込んだ。
気温も上がり始めじっとりとした空気のなか、途切れない雨音を聞いてると眠気が襲ってくる。目を開けているのもしんどい。
「せっちゃん〜起きて〜まだ一限も始まってないよぉ〜」
ぐちゃぐちゃの頭で考えてもろくなことにはならない。心配なことほど落ち着いた頭で考えなきゃ。
「瀬津〜」
「…なんだよ」
「今日は放課後残って勉強してく?」
HR直前で予鈴がなってもまだ俺の席の前からどかないハルが俺をつつきながら聞いてくる。そういえば部活を引退してからというものの、毎日のように放課後教室でハルと勉強している。そこにたまに笹山と風間が加わることもあったりと、俺からしてみれば不思議なメンツだったが、不思議と居心地はよかった。
しかしそうだ、頭が混乱している原因は他にもある。今日は…今日は、
「今日は父さんが帰ってくる」
「え!そうなの!よかったな!」
ぱっと顔を輝かせるハルがまぶしい。なんでお前がそんなに嬉しそうなんだよ。会ったこともないはずだよな?
俺も昨日あたりから何か落ち着かずにソワソワしていたが、なぜか俺よりもテンションが高くソワソワしているハルを見ていると妙に冷静になれた。
「まあ…よかった、けど」
部活を引退して俺が時間的には落ち着いたからか、ついに今日父さんが帰国するという話だ。大学に進学することは決めたものの、まだ特になんの情報も持ってない俺に活をいれに来たのか…とはあまり考えられない。
「瀬津のお父さんなあ、俺すんごく気になるんだよな。どんな人?」
「え、えぇ…酒豪?」
「マジ?」
目をキラキラさせている晴久が分からない。今の答えのどこにそんな興奮する要素があったのだ。
しかも今の父さんの仕事先はドイツだ。時たま送ってきてくれる荷物のほとんどがビールとつまみ。未成年への仕送りがアルコール、という大人だ。本当にあの人は俺の将来を考えてくれているのか?と言いたくなる。
とはいえ半年ぶりに実の親に会えるのが嬉しくないわけないというのも事実で。
「わぁあ、今度瀬津んち遊びに行こ!」
「わあぁ、まじか」
いや、父さんがいるうちは切実にやめてほしかった。機嫌が良さそうににこにこ笑うハルを見ながら俺が内心焦っていることをコイツは知らない。
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