第3話


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「バレー部でーす」
「自転車サークルどうですかー?自転車で旅してまーす」
「模型研究会はんだでーす」

 説明会のあと外に出ると部活やらサークルやらの勧誘のチラシを思い思いに学生が配り歩いていた。

 テキトーにもらったりもらわなかったりやり過ごしていた俺の前にまたひとつ手が伸びる。

「もし興味があれば、ぜひ遊びに来てくださーい」

 突然目の前に伸びてきたチラシには、かけはしと書いてある。なんだ変な宗教か?と思わず胡散臭い目でチラシを差し出した人物を見上げてしまった。

「あ、そんな怪しい目で見ないでよ。ごめんごめん、無理に勧誘するようなサークルじゃないんだけどさあ」

 言われてチラシに目を戻せば、同性を好きになるかもしれない、性別概念に縛られたくない、と書いてあった。弾かれたように顔をあげた。

 人のよさそうな顔でチラシを差し出すのは、金髪にピアスがいくつも開いたいかにもチャラそうな男だ。俺と目が合うと、キツネのような風貌の男は細い目を一層細めて見せた。こういういかにもなヤンキー崩れのようなファッションの男は地元では見たこともなかったから、俺の頭にはただただ治安が悪い、という言葉が浮かぶ。

 それになんなんだ、このサークルは。

「…なんのサークルなんですか」

 思いのほか低くザラザラとした声が出た。けんか腰に聞こえやしないか不安になる。でも正直そんなことを考える余裕があることのほうにびっくりするくらい、内心俺は超ビビっていた。それはもう心臓の音が彼に聞こえてるんじゃないかっていうくらい動揺していた。

「最近こういうサークルのある大学も増えてるんだよねえ。LGBTっていうの。聞いたことはない?」

 それは俺のこと。もちろん知っている。

 自分以外にも同性愛者の人がいることだってわかっている。でもそんな人に今まで出会ったこともなく、出会うきっかけもなかった。

 いざそのきっかけを前にしても、目の前にいるいかにもなパリピを見て、自分と同じとは正直思えなかった。こういうタイプはクラスの中でもかなり目立つ、いわゆる一群系の奴だ。本当にこのサークルにいる人は、俺と同じような性癖を持っているのか?目の前の金髪を見れば見るほど、だんたん信じられなくなってくる。

 無言でにこりともせず金髪をじっと見ていたせいか、男は俺にチラシを渡すとへにゃりと情けなさそうに笑った。

「…ひき止めちゃってごめんな。勉強、頑張って」

 いつまでたってもなにも反応を示さない俺を見て、申し訳なさそうにそう言うと、また同じように説明会終わりの高校生にチラシを配り始めた。その後ろ姿から俺は目を離せなかった。
俺と同じ、同性を好きになる人がいる。たくさんいる。この機会を逃したら、そんな人たちと出会うことは簡単なことじゃないはずだ。

 あの人も同性を好きになるのか。誰にも言えない時期があったのか。俺は今までずっと自分が異常なのだと思っていた。でも、自分を理解してくれるような人もいるのかもしれない。そういう人に出会えるのかもしれない。

「あ、どうっすかー?俺たち架け橋っていうサークルで、」
「すいません大丈夫です」
「あはは、すんませ〜ん」

 ……そんな簡単なことじゃないか。簡単に理解してもらおうなんて、それはただの都合のいい甘えだ。

 視界をチラチラと横切るちょっと伸び気味の金髪は相変わらず目に入った学生に声をかけている。別に俺がゲイだと思って声をかけたわけじゃない。

 安堵と共に、むしろ誰かに告白できれば楽になれるのにと思う。家族にも怖くて言えない、こんな性癖。一緒に生活することができない父からの愛情はこれ以上ないくらいに感じているのだ。そんな父さんを裏切るわけにはいかない。

 俺もいつかは無理にでも女の人と結婚するのだろうか。

 晴久の顔が頭に浮かぶ。失笑が漏れた。

 無理だよな。女とくっつくのも、好きな人と一緒になるのも。俺はこれからも今まで通り生きていくのだ。

 本当にそれでいいのか、何かを変えたくてわざわざ東京を選んだんじゃないのか。そんな心の声を無視して、サークルのビラをポケットにつっこむと俺は二校目の大学へ足を運んだ。


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