第3話
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一瞬固まったのち、涙目になりながらおいおい叫び始めるおじさん達を横目に浩二さんは俺に、流しとけと言った。
「確かに俺たちはアブノーマルの世界の住人として見られがちだけど、なんてことない、他の奴らとまったく同じ人間だ。ゲイだからって不幸なわけじゃない。きっとまだお前はそこを勘違いしてんだよ」
視線を前に戻し、さっきまでとはうって変わった静かな口調で浩二さんはそう言った。しかしその目は爛々と光っていた。
「でも…当事者の俺たちがそう思っていても周りの人間もそう考えてくれるとは限らないじゃないですか」
「確かにそういう人種もいる。逆に私は分かってますって顔しながら俺たちを型にはめた見方しか出来ない奴もいる」
「…」
「ま、全部自分の考え方次第さ、結局は。認めてくれない人は認めてくれない。でも受け入れてくれる人は受け入れてくれる。ある程度折り合いつけて割り切るしかねえよ、そこは」
ふうっと息を吐きながら気だるそうに言う様子から、浩二さんもそれなりに苦労してこの考えに落ち着いたんだろうということが分かる。
それでも聞かずにはいられなかった。助言を求めてではなく、ただ聞いてほしくて。
「でも、誰を好きになるかはわからない。ノンケを好きになったら?その人が受け入れてくれないタイプだった場合は?受け入れてくれたとしても俺たちと同じような感情を持ってくれるわけがないだろ」
「ノンケか?」
浩二さんは口の端を上げて笑った。
「不毛だな。早々諦めるか、玉砕して二度と関わらないかの二択だろ」
「二度と関わらない…」
分かっている、それが最善の選択なんだってことくらい。もしうまくいかなかったら、いや100%うまくいくことなんてない告白なんてしたら最後。もう元の関係には戻れない。そのまま相手との関わりを持っているほうが相手に迷惑をかける。それならもう二度と関わらないでいるのが相手への誠意ある行動だろう。
なのに、自分の心に素直になって晴久と別れるくらいなら、ウソをついてでも友達という立場で隣にいたい。なんてバカなことを俺は考えている。どうしたって、ノンケに恋をしたところで幸せになれるわけがないのに。
「おいおい、たかが大学生がテキトーなアドバイスしてんじゃねーよ」
開いていた俺の隣のカウンター席にドンっと勢いよくジョッキが置かれた。びっくりして隣を見ると、さっきまで浩二さんにヤジを飛ばしていたおじさん達の一人だった。
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