第4話


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「悪い、今日先帰るな」

 そう言って教室を出ていく晴久にまた明日、と声をかける。一人になった放課後の教室で、俺はイヤホンを耳につっこみ黙々と目の前の問題集に向き合った。

 そうでもしないと、無理にでも何かに集中していないと、どうしても別のことを考えてしまう。八つ当たりのようにカバンに入っていた板チョコをバリバリと食べ、ひたすらに数列を解いて回答を書きなぐった。

 俺もなんだかんだで立派な受験生じゃないか。数か月前の自分はきっと、放課後の教室で糖分補給をしながら死に物狂いで問題を解いているところなんて想像もしなかっただろ。

 ひと段落着いたところで、イヤホンを外し伸びをする。窓の外に目を向けると、外はもう薄暗く、聞こえてくる外部活の声はクールダウンのものだった。

 黒板の上の時計に目を向けると、最終下校時刻の20分前だった。そろそろ当番の先生が見回りを始める頃だ。下校時刻までに門を出ればよいが、今日の当番が担任であることを思い出し、早々帰り支度を始める。担任は俺がやたらと学校を休むせいでか、顔を合わせれば何かと卒業に必要な出席日数の話を長々と始める。あまり居合わせたくはなかった。

 パタリと問題集を閉じると、頭の中では解ききれなかった問題の続きを無意識にうちに計算し始めている。

 そうまでして考えたくないのか。あきれたような溜息が漏れた。

 今日も、晴久は先に帰った。

 別に一人で勉強したい気分も分かるし、何も強制されて二人放課後に残っていたわけではない。ただ、最近のハルはどこかよそよそしいのだ。

 今までに比べ、受験生であることもあってか明らかに会話も減ったし、何よりあまり俺の目を見なくなった。話している時も単語帳に目を通していたり、ぼんやりとどこかを見ている。
こんなこと初めてだ。

 別にうぬぼれているわけではないけれど、こんなこと今までになくて、俺が何かしてしまったのかとただ怖いのだ。忙しそうにするハルに、予備校にでも通い始めたのかと聞いてみたが、それも違った。だいたいバスの最終が八時なのだから、車を持ってない俺たち高校生にとっては駅の方の予備校に通うには無理がある。

 期末試験がもう来週に迫っている。季節ももう本格的な夏といっていい。本当につい最近まで部活しかしていなかったはずなのに、部活を引退してからもう二か月近くになるのだ。そう思うとなんだか不思議な気分だった。

 期末試験が終わればすぐに夏休みに入る。もうそんな季節になってしまった。受験勉強に本腰を入れ始めた時期に俺は何にとらわれているのだろう。


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