第4話


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「お、天野が最後か」
「うわ、やべ」
「おい、なんだその反応は」

 もたもたしているうちに見回りの担任に見つかってしまった俺は、反対のドアからすり抜けるように教室を後にしたが、引き戸のレールに躓いてつぶれたカエルのように転んだ。

「…痛い」
「…そりゃ痛いだろうな、そんな転び方すれば」

 呆れたような溜息と共に起き上がった俺の前にしゃがみこんだ担任が埃を払ってくれる。

「なんでこうお前は、いつも狙ってないにも関わらずこんなタイミングでそうなるんだ…そんな顔で見るなよ、俺のせいじゃないぞ?」

 持って生まれた災難とでも言えばいいのか。俺の不注意とは言い切れないくらい、昔からこんなだ。とはいえ、あまり顔を見せたくない人に見つからなければ被ることのない災難だ。

「今日は樋本はいないのか?」

 立ち上がり教室を見回した担任は珍しそうな顔をしていた。

「最近はハルのが早く帰ってる」
「なんだよ、寂しいのか」

 無意味に転んだことにぶすっとした顔で答えたら、変な勘違いをされたらしい。俺の気も知らないで揶揄うようにそんなことを言う、この悪意のない空気の読めなさにいらっとする。

 寂しいも何も。だって様子が変じゃないか。こんな状態で夏休みに入るのか?あの余計な会話はいらないとでも言うようなピリピリとした状態で。

「電車の時間あるんで帰りますね」
「あ、ちょ、逃げんな天野!」

 追って来ようとする担任を振り切って、教室を後にする。外にでると蒸し暑い空気に包まれ息が詰まった。なぜだか苛々とする。

 携帯を取り出すと、浩二さんからの着信が入っていた。東京から帰って以来、あまり見ていなかった名前に嬉しくなる。それにしても今何の用で掛けてきているのだろう。びっくりしたと同時に緊張が走った。

「…出ないな」

 何度かコールをかけてみたものの、一度もつながらなかったからもしかしたら誤操作なのかもしれない。

 それにしても、と空を見上げる。東京よりもずっと綺麗な空は太陽が沈んだばかりなのか、まだほんのりと色づいていた。

「あの人俺のこと覚えてくれてるのかな」

 俺は今あの人を頼りに頑張っているというのに。

 ふとハルの顔が浮かぶ。

 いつもは顔を合わせると、止まらないほど話始めるというのに。俺も人とのかかわりを必要以上に持ちたくないと思うようになってしまったとはいえ、元の性格が寂しがりやな会話好きだ。何か話題を見つけて話を始めても、一方的ですぐに終わってしまう最近の会話。何を言っても、前までのようにうまくいかない。ああ、うん、そうか。と曖昧な相づちを打つ。その態度が何かと周りの空気を読むハルにしては珍しい。

 表面を繕えないほどの何かがあるのだろうか。それとも単に俺が邪魔なだけだろうか。

 どうしたもんかね、本当に。

 イヤホンからは明るいポップスが流れている。機械的に流れるだけの音楽をただ聞き流しながら吐く溜息は、心底気分が気分が悪かった。


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