第4話
← 36/127 →
「はぁい、ついに夏休みに入るわけだけど、受験生の君たちにいい情報がありまーす」
一学期最後のHRでやたらテンションの高い先生の話を大半は笑いながらだったり誰かと話しながらだったり、三割くらいの奴は参考書やら単語帳に目を落としながら聞いている。
かく言う斜め前のハルも英単語を必死に眺めている一人だった。たれ目でいつも優しそうな顔つきのハルが真剣な表情でいる。
いつも俺に愛想がないのなんの言ってくるが、お前も真顔になればとてもじゃないけど簡単に近づけるようなオーラじゃねぇよ、と言いたい。でも残念ながら、俺の真顔は目つき悪すぎて顔死んでると言われるのに対し、ハルは見惚れるような眼差しであるところが悲しい現実だろう。
ぼーっとハルの整った横顔を机に突っ伏した状態で眺めていると、ふいにチラとハルがこっちを向いた。
流石に不意打ちすぎて目を瞬くくらいの反応しかできなかったが、心臓はびっくりするくらい早くなっていく。俺と目が合うとハルはふにゃりと困ったように笑った。
「ということで、我々教師陣が体を張ったことで夏休み中も休みなく自習室を開けることができるようになりましたわーい。家にいても勉強できない〜、気が散る〜、俺の顔が見たい〜って奴はいつ来てもいいからな」
一瞬時が止まったかのように感じたが、すぐに現実は戻ってくる。棒読みで連絡事項を読み上げる担任の声を無視してあくびをかみ殺す。
別にお前のこと見てたわけじゃねえし、ほら見ろ、俺あくび我慢してるだろ?寝ぼけてただけだし、とでも言うようにハルのことを軽く睨むと、クスクスとハルが笑った。
ああ、よかった。まだ俺にそんな顔見せてくれるんだな。最近は本当に学校で顔を合わせるだけで必要最低限の会話くらいしかなかったのだ。
いや、それもこの時期となれば当たり前なのかもしれないけど。1日12時間も勉強していたのに第一志望には落ちたなんて話、大学受験に関してはざらにある。そのくらい必死になるのが普通で、そのために切り捨てるものがあるのも普通で。
「まだまだ夏休み、これからが伸びる時期です。最後まで諦めないように、はい解散。あ、天野は残るように」
「なんでだよ!?」
急に名前を呼ばれ思わず顔を上げると、クラスのそこかしこから笑い声が上がった。
「あれだろ、せっちゃんこの前ロッカーのカギ壊してたじゃん」
「うるせーな、あれ絶対被害大きかったのロッカーよりも俺の足だろ」
小指ぶつけて死ぬかと思った、とかなんとか呟きながら肩をすくめる。
起立ー気を付け礼、と形だけのあいさつが終わった瞬間教室はざわざわと騒がしくなる。さすがにクラスメイトの目の前で呼び出し案件をくらったら逃げるわけにもいかない。
しょうがなく前の担任のところまで行く時、ハルの前を通りすぎた。目が合うとハルは軽く手を振り、帰ってるな、と口を動かした。それには何も言わず、頷いて答える。
前までは待っててくれたのにな。
一瞬でもそんなことを思ってしまった自分が恥ずかしかった。
← 36/127 →