第4話
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変りたかった。ずっと変りたかったはずなのに。
それなのに、変わってほしくはなかった。変わりたく、なかった。
今の関係が少しでも動くことが怖い自分がいた。俺が求めていたのは、片をつけることでもなく、自分が変わることでもなく、ただ徐々にフェードアウトしていくことだったのかもしれない。ハルと大違いな自分本位さ。
でもその決断を自分じゃ出来なくて、ただ選択肢の中から優先するしかない進学を理由にしていただけで。
冷房で冷えたのか、鼻をすするとズピと情けない音が漏れた。体の内側は冷えたままなのに、開け放した窓から流れてくる外の暑い空気は体の表面だけを温めてくれた。徐々にじわじわと浮いてくる汗を腕で拭う。
セミの鳴き声しか聞こえない静かな部屋で、暑い空気をかき回す扇風機の古風な音が虚しく聞こえていた。
「あっちいな」
ぱたぱたとシャツを仰いで風を送るが、さして変わらない。どうせならこの無駄に冴えた頭も暑さで狂ってほしかった。
ひんやりとした畳に頬を押し付け倦怠感に身を任せ目を閉じる。思いのほか暑さと、何時間も座り続けひたすら頭を使っていたことに疲れていたのか、目を閉じると途端に瞼が重く持ち上がらなくなった。
意識はあるはずなのに、どこかふわふわとした感覚のなか、真っ黒な視界に意識が飲み込まれそうになる。
眠っているのか起きているのか分からない。セミの声がうるさかった。微かにあたる風に、子供がはしゃぐ声と煙の匂いが混ざって流れてくる。
ああ、そうだ。今日が盆祭りか。
大人の手伝いをしながら楽しそうに遊ぶ小学生たちのやたらとテンションの高い声は、日常のようで少し違う。お祭りの日ならではの、遅くまで遊んでいられる特別感、高揚感。いつもならめんどくさがって引き受けないような雑用もその日の特別なのりで引き受けてしまうのだ。あの日もそうだった。
こんな声を聴いているとなぜだか胸が苦しくなってくる。俺はなぜか、いつも何か特別なことが始まるとその終わりを考えてしまう。終わりがあるから、戻らない時間に切なくなってしまう。短い一日限りのこの時間に見るのは、悲哀だ。
目を開けると、さっきまでと全く変わらない部屋の様子が目に入る。いつまでもこうしているわけにもいかない。
のっそりと起き上がると窓を閉め、外の音を遮断した。冷房の温度を二度下げ、机に向かう。今年は勉強だ。
あたりが薄暗くなり始めてからやっと、俺は毎年この日を楽しみにしていたことに気がついた。ハルと二人でくだらない話をしながら提灯や灯篭の準備をする時間が、屋台を回る時間が、花火を穴場だというハルの家の屋根から見上げる時間が。
女々しい自分を鼻で笑った。蓋をするようにイヤホンをさし、シャーペンを握りしめる。
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