第4話


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「せっちんは志望校は決まってるんだろ?」

 本当にただの世間話というようなトーンだった。それも当たり前ではあるが。詩悠さんのその声を聴いた瞬間、俯いていたハルがぴくっと震えた。

「…まぁ」

 あまり気乗りしない受け答えに何を察したのか、詩悠さんは緩く笑うと弟に視線を向けた。ハルは俯いたまま手際よく手を動かし続けている。どこか壁を感じるのは詩悠さんがいるせいだと思いたかった。

「…ハルは志望校、決まってるの…?」

 恐る恐る、といった感じだった。なんてことない受験生の会話。受かれる実力かどうかなんて関係ない、ただ一緒に頑張ろうよという意味で聞いただけだった。
それなのに。

「……うるさいな、関係ないだろ」

 吐き出された低い声は今までに聞いたことのない響きで。一瞬で腹の底が冷えるのを感じた。ひゅっと息を飲む音が耳に入る。頭から血が抜けたように目の前がちかちかとした。気を抜けば倒れてしまいそうだった。

「そう、だな。…ごめん」

 やっとのことで出した声は上ずっていたかもしれない。

 そんな俺たちを相変わらず詩悠さんは楽しそうに眺めている。ハルを面白そうな目でニヤニヤと見ていた。冷えて感覚をなくした指先で俺は必死に作業をしていたが、ハルはやがて立ちあがると何も言わずに出て行った。ハルのいた場所には取った紙と灯篭の枠が綺麗に重ねられていて、その周りにはもう解体の必要な灯篭は一つもなかった。

 詩悠さんがくすりと笑う。

「あいつ、バカだから。でも俺はともかく、せっちゃんにあんな口きくとは思わなかった」
そんなに切羽詰まってるのかねぇ、と呆れたように詩悠さんが呟いたが、俺はただただ死にたい気分だった。


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