第5話


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 九月の半ばに入ると、夏休みの間から準備を始めていた文化祭への勢いもそろそろ山を迎える。学祭は今週末に迫っていた。高校生活最後になる大きな行事への思いと、受験への焦りを同時に感じながら放課後少しずつ作業を進める日々が続いた。

 俺はというと、8月最終の模試の結果にとことん沈んでいる。夏前の模試からたいして伸びることのない結果たち。俺が血反吐を吐く勢いで自分を追い込みやってきた勉強に果たして意味があったのだろうか、と嫌になる。そもそも後半はほぼやけくそに勉強していたが。

 夏の模試の結果にかなりダメージを受けたことで、夏前からのハルの人を寄せ付けない雰囲気で勉強していた気持ちが少しわかった気分だ。きっとハルもそうとうに焦っていた。俺以上に焦りをずっと持っていたのだ。

 それでも学際の準備をサボるわけにもいかないし、ちょっとした空き時間を作ることは出来る。ただ強制ではないし、毎日残らなければいけないわけでもないから、今日は一人電車に揺られている。

 最寄の駅を降り、バスの停留所で参考書に目を落としていた。

 コの字に並べられているベンチには俺一人が真ん中に座り、他の席は空いているはずだった。

「……なんか近くないすか、詩悠さん」

 人の気配を感じ顔を上げると同時に、腿に温かい温度を感じる。横を向くと、詩悠さんがニヨニヨと笑っていた。

「いいじゃーん。せっちんと晴久っていつもこんくらいの距離感じゃなかったっけ」
「どんな関係だと思ってんすか。こんな近くねえから」
「うーん?そっかなぁ」

 湿度に跳ねる前髪をねじるようにいじりながら詩悠さんが笑った。いつも笑っているから、この人にはある意味で表情がない。詩悠さんの笑顔は真顔と言ってもいいんじゃないか、と思うことがある。どっちにしろ何を考えているのか分からないのは一緒だ。

「晴久は?」
「あー…今日は残って文化祭の準備してる」

 以前ならハルが残るなら俺も残っていただろうし、俺が残るのならハルも残っていただろう。夏休み前や、夏休みのあの事件の時ほど俺たちの関係が今でもギクシャクしているわけではない。せいぜい友達としてほどほどの距離感になったくらいだ。お互いがお互いに干渉しすぎず、適度な無関心。くだらないことを言って、どこかわざとらしい乾いた笑いを上げる。楽しくない。

 思えば俺たちは俺が思っていた以上に距離が近かったらしい。今思えば俺はよくあの距離感で自分を保てていたな、と思ってすぐ思い直す。

 保ててなかった。実際俺は発作に何度もやられてた。まったく笑えてくる。いらない妄想で自分で自分を追い込んで、さんざん吐き気と戦って、というか胃の中のものぶちまけてたじゃないか。


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