第5話
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文化祭当日、校内は浮足立っていた。田舎すぎて保護者関係者くらいしか来ない、たいして盛り上がることのない学祭だったが、やっぱり青春ド定番には憧れるらしい。普段よりスカート丈を短くし、化粧になにやらキラキラしたものを顔につけている女子たち。背伸びしてなんかよくわかんないけどイケてると称される格好をする男子。
制服の上がクラスTシャツであること以外いつもと変わらないハルは、いつもより少し眠そうだった。
それでもだれよりも格好がきまっている。さっきからやたらとクラスメイトと写真を撮って回っている女子がハルに群がっていた。
うちのクラスは午前、午後と一回ずつダンス部のトレーニングルームを使って公演をする。俺は照明担当で、前日から忙しなく微調整や確認、合わせに付き合っていた。屋台なんかと違い、公演さえ終われば時間が有り余る、なんだかんだで今までで一番ゆっくりできる学祭だった。
「っ瀬津!」
「うわ!」
ぼーっとしていたら、ハルが腕をひっつかんでいる。女子の中からやっと抜け出してきたらしい。少し疲れた顔をしていた。
「ちょっと飲み物買いに行こ」
「え、あ、うん」
俺の腕をつかんだまま、クラス全員が集まった教室を抜け出す。
教室から出るとハルは肩をぐるぐると回した。
「相変わらず人気者だな」
広い背中を見ながら言う。そんなつもりはなかったのに、棘のある言い方になってしまった。
「いや、しゃべりやすいし面白いし優しいしかっこいいし、それで普通か」
そのいいところが、逆に自分を苦しめているのがハルだけど。思わず訂正すると、服の上からでも分かるほど背筋の鍛えられた背中がぴんと伸びた。先を歩いていたハルが突然立ち止まり、背中にダイブでもしそうになったと同時にハルが振り向いた。思った以上に顔が近くて目を見開く。
俺とハルはあまり身長は変らない。目の前には焦点が合わないほど近いところに焦げ茶色の澄んだ目。驚いて目を丸くしている。ただでさえ大きな目をさらに大きく見開いている。
既視感を覚えるのは気のせいか。つい最近もこの色を見た。
思わず心の中で溜息を吐く。…詩悠さんだ。
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