第5話


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 たっぷりと二秒が過ぎた。ハルの長いまつげが触れそうなところでゆっくりと瞬きをした。
徐々に顔に熱がいくのが分かる。赤くなった顔を見られたくなくて、反射的に一歩下がり、ハルの肩を押しやる。

「急に止まんなよ」
「ごめん。瀬津がそんなストレートに俺のこと褒めてくるから。なんか変なもんでも食った?」
「失礼」

 変なもの、ね。つい最近、詩悠さんに爆弾ぶち込まれたような気分だけど。

「ふはっ…すんげえ顔してる。今日どこまわろっか」
「え?」

 今度は俺もハルの隣に立つ。並んで昇降口の自販機へ向かっていると、ハルが笑いながら言った。その言葉にも驚いて隣のハルを思わずのぞき込む。

「え、どこって、学祭?」
「え、何、なんか女の子にでも誘われた?」
「へ?いや、別に」

 そう言えば、今日どうするつもりなのかまるで考えてなかった。学祭なんてぼっちは酷すぎるし。毎年、とくに約束するわけでもなくハルとぶらぶらいろんなクラスを見て回っていたけれど、今の俺たちと去年とじゃ距離感が違いすぎだ。

 じわじわと広がっていく感情に頬がにやけるのを必死にこらえた。浮かれてんじゃねーよ、と冷静に突っ込む自分ももちろんいる。俺が浮かれて悪いか。

 でも、そう。俺が晴久に誘われて喜ぶ理由と、ハルが俺を誘った理由はどこまでもかみ合わないのだろう。わきまえてはいるさ。大丈夫。今だけ、今だけと要らぬことまで求める自分を押さえつける。

「じゃ、午前の公演終わったら」

 にや、と笑うハルを見て胸がうずく。

 捨てないでやってくれ、とらしくなく切羽詰まった目で言う詩悠さんが頭をよぎった。

 詩悠さんはいろいろ分かってない。無理なんだよ。捨てられないから、忘れられないから、離れるんだ。殺すんだ、自分を。

 頭の中では聞こえるはずのない秒針の音が鳴り響く。

 刻一刻と刻まれる時間には終わりが見える。最後だから、と言い聞かせた。いろんな意味にもとれる諦めが広がっていった。


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