第6話
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結局卒業式の流れだとか練習だとかを済ませ、部に挨拶をしたり面倒を見てくれた先生たちにお礼を言って回っていると、時間はかなり遅くなっていた。
電車の中でスマホを開けばハルからのメッセージが届いている。
『今試験終わった。これが駄目だったら私立だー』
食い入るように画面を見つめ、ほっと息を吐く。浪人するつもりはないらしいから、泣いても笑ってもこれで決まるということだ。もう後は待つだけだということらしい。
『これから帰るけど今どこにいる?』
即座に届いたメッセージに心臓が跳ねた。落としそうになったスマホを握りしめ、周りをチラチラと確認する。顔が崩れそうになるのを必死にこらえ、にやける口元に力を入れる。
学校を出たところだと告げるともはや秒で返事が返ってきた。
『30分くらいで行くから、ちょっと夕飯付き合って』
上がりそうになる口角を必死で抑え、口を結んだ。湯気でも上げそうな顔を持ち上げたスマホで隠す。じたばたと今にも震えそうな俺は普通に挙動の怪しい人に見られただろう。
電車のドアに寄りかかってぎゅっと目をつむると、いつもは降りないここらでは一番栄えている駅で降りた。
二か月近く会っていないのだ。話したいことも聞きたいこともたくさんある。やっと顔を見れる、とうずうずしている。どうにもテンションが上がりまくった俺は、もはや習慣化してしまったように、浩二さんへ電話を掛けた。
「やっふー!浩二さん、元気??」
「テンションがウザい。何だよ、W大でも受かったのか?こないだ物凄く微妙なテンションでうちの大学受かったって電話よこしたじゃん」
そういえばあの時は、受かった喜びより緊張から解けた放心の方が大きくてやけに暗いテンションだったのだ。つい一週間前のことを思い出して笑みがこぼれる。
「いや、別にW大はもういいよ。今日はね!終電逃して晴久と飯食いに行く」
「なんか過去ないくらいにテンションたけぇな…」
「お兄さんはいつもヤギみたいなテンションだよねぇ」
「聞いたことねぇ表現でさらっとディスんなコラ。…終電逃したって?」
嫌味はさらっと聞き流すクセに、そういうところはしっかりと突っ込んでくるのだ、この人は。やべ、と思った時にはたいていもう遅い。
「うちのバス、最終が20時だから。もう七時半過ぎてるしどっちみち間に合わないし」
「それで帰りは大丈夫なのか?」
「別に歩ける距離だし。男子高校生には余裕の山道よ、ちょっと街灯少ないくらいじゃね?」
心配性なんだからぁ、と我ながら気持ち悪く突っ込めば気だるそうにアホと返される。いつも俺のダル絡みに付き合わせて悪いとは思うが、浩二さんなくしてもはや当たれる場所がなく精神がもたない。いろんな意味で爆発しそうだ。
興奮気味に捲し立てすぎたのか、激しくむせると電話の向こうで諦めたように笑う気配を感じた。
「ま、気ィつけて帰れよ。浮かれすぎてボロを出すのもどうかと思うぜ、俺は」
「わきまえてますよ、俺だって。ふた月ぶりに友達に会えるのが嬉しくない奴がいるか?」
「友達ねぇ…」
「じゃ、おやすみなさい浩二さん」
人気の多い明るい駅にこの時間までいるのは軽く非日常だ。制服姿のハルが見えた時、痛いくらいに口角が上がるのが分かった。ここ一か月ほどまったく使っていなかった筋肉がみしみしといっている。
丸一日机に向かい一年分の努力をぶつけてきた帰り、さすがにハルは疲れた顔をしていたが、どこかさっぱりとした様子だった。
「お待たせ、瀬津」
「お疲れ、晴久」
同時に言うと、話し合いもせず歩きだし高校生にもリーズナブルな店に入る。席に着いた途端お互い話が止まらなくなった。
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