第6話
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東京へ来た一日目は東京観光をしようということで、とりあえずメジャーな観光地へとひたすら修学旅行の自由時間のように動き回った。どこも大概、日本人よりも外国人が多いようだった。
「うわあ、ほんと人多いのな東京って」
「この辺は特別多いだろ」
周りに目もくれず颯爽と歩く都会人に、珍しくおっかなびっくりになっているハルはかなり新鮮だ。人とぶつからないように細心の注意を払いながら、頭上のビルに目をとられと忙しない。
「うわあ…でかい…いや、小さいというか、なんというか。狭い?」
口をあけてアホ面を晒しているというのに、やっぱり若い女の子たちの視線がハルに向いて行く。それをどう思っているのか、自分を見つめる視線に気がついたハルはどうしたの、とでも聞くように笑って首をかしげて見せた。小さくきゃっきゃと騒ぐ女子高生から目を話してハルは悪そうな笑顔を浮かべた。
「なに愛想振りまいてんの、お前」
「何って、俺は今テンションが高いんだよ。なんならすれ違った人全員におはよう!とか挨拶し始めそうな気分」
そう言うとさっき女の子たちにむけた表情とはかけ離れた顔でけらけらと笑った。これは完全に面白がっている。自分の容姿を含め、面白がっている。
「ほどほどにしとけよ?あんまそのキラキラしたオーラ出さないで」
「せっちゃんは相変わらずしなびたオーラじゃんね」
「都会の人混みに汚染されてんだよ」
アホみたいな会話をしながら、なんなら観光なんかよりしゃべることがメインになりつつ、慣れない道を歩いた。珍しく子供のようにはしゃぐハルを見ながら俺はどこかずっと上の空だった。
「うっわ、一番安いビジネスホテルにしたのに、ここすげくね?」
東京湾に近い一角のホテルの14階という高層階に案内された俺たちは、部屋に入るや否やベッドにダイブした。
「っあ〜疲れた!こんな階あるホテルとか知らなかったし、14階だとは思わなかったわ」
「それなぁ、うおおせっちゃん!すごい!これが正しい夜景か!」
窓ガラスに顔がくっつきそうなくらい興奮した様子でハルが振り向く。俺もハルの横に並び眼下を見下ろした。
ひやりとするくらい道路は遠い。輝いて見えるのは繁華街の光だけではなかった。信号、街灯、街の明かりに渋滞を起こす車のライト。にぎやかなイルミネーションのようなそれは人が多くなければ見れるものではない。まさしくここで生活する人が作り出している明かりなのだ。地上にいるだけでは狭い空に息苦しかったけれど、少し上に行ってしまえば家庭の明かりが埋め尽くす。人で溢れたこの景色は見える光も生活感から来ていた。
「田舎の星空もいいけど」
男二人、ベッドの端から並んで夜景を見下ろしている。
隣でハルがささやくようにつぶやいた。
「都会の夜景を上から見下ろすのもいいな。ちょっと地上は俺には落ち着かなかったけど」
「うん、俺も今思ってた。こうやって見ると、田舎の景色は寂しいな」
「そもそも人がいないからな」
ついこの間、自転車で爆走した挙句放り出され見上げた空を思い出す。冷たい空気が肌を刺し、周りには誰もいない。呼吸さえも聞こえてきそうな広く深い静かな空間で、二人きりだった。
ここは温かい光のある快適な温度の部屋で、見渡す景色は人で溢れている。
無言でしばらくこの珍しい景色を眺めた。
「綺麗だけど、なんか急かされてるみたいで怖くなる」
「はは、急かされてんじゃねぇの?明日早いし。風呂入るか」
ぐっと伸びをするとハルが荷物を整理し始めた。俺も名残惜しく窓の下から目を離すと、自分のベッドサイドへと戻った。ビジネスホテルだし、風呂は部屋のシャワーくらいしか使えない。無言でじゃんけんし、勝ったハルが風呂場へ向かっていった。
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