第6話
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発作が出たときには学校なんて行ける状態じゃなかった。そんなことを漏らすような状態で学校に行くことはなかったはずだけど。ひょっとして俺は思っている以上にいろんな場所でボロを出してるのか?
「ただの体調不良じゃないって、ずっと思ってたけど、それでやっぱり瀬津は何か抱えてることがあるってわかって。どうもしてやれない自分が嫌だった。あの時は俺が死ぬかと思った。怖かった」
「な、は、晴久は…ハルが何か、そんなこと思う必要なんて」
「あるよ」
どうしてハルが俺のことで自分を責める必要が、罪悪感を感じる必要があるのだ。悪いのは俺なのだ。それにコイツは俺が本当は晴久をどう思っているのかを知らない。それを知ったら納得してくれるのか?それとも心配して損をしたと思うのか?
「瀬津は、俺にとって初めてできた唯一無二の存在なんだ。…いや、そんな風に一方的に思ってるだけなんだけど」
え?…ええ?
突然何を言い出すのかよく分からない。
「だから、分かってはいるんだけど、自分のこと信用しきってるわけじゃないんだろうなって思うと、ちょっと悲しかったよ」
「そんな…」
だってこれは、これを言ったら友達ですらいられなくなる。
「言えないことの一つや二つ誰だってあるよ。そこをどうこう言いたいんじゃなくて。ただ、俺じゃ力になれなかったのかな、とかさ。ま、今の瀬津を見てる限りそんな必要はないって分かるんだけど」
「俺は…お前がいなかったら、とっくに立ち上がれなくなってるよ。ハルが、ハルがいなかったら…」
「はは、それは俺も一緒」
ハルが寝返りを打って俺に向き直った。そのまなざしに息を飲む。
「俺も瀬津がいなかったらって考えると荒れに荒れてやさぐれたクズになってんだろうなーって思うよ。詩悠の成り損ないみたいな。道外れなかったのは瀬津のおかげ。だから、俺も瀬津の力になりたかった。そうさせてくれないことが、悲しかったし悔しかったんだ」
「…」
俺はずっとずっと迷惑をかけたくなくて感情を隠してきたのだ。それなのにどうだ?とうの晴久にはこんなにも心配をかけさせて、不安にさせていたのだ。
なんて言えばいい?このまま逃げるのはあまりにもひどい仕打ちではないか。
「……」
「ごめんな。急にこんな話しちゃって」
「俺が、俺が田舎に…栄さんに預けられた理由」
もうこの話は終わりというように俺に背を向け寝ようとしたハルを思わず引き留めるように、気が付いたら口走っていた。どうしても背中を向けてほしくなかった。
「父さんがドイツに転勤すること以外にもう一つあったんだ」
ゆっくりとハルが目を見開いて俺を見つめた。その視線に緊張しながらゆっくりと息を吐く。
「中学に上がる前…その、俺いろいろあって…なんていうか結構荒れてて。その頃から、定期的に体壊すようになって。…それはやっぱり根本は精神的なものだったわけなんだけど」
俺がゲイで、俺がゲイだったから。そう気づいてしまったから。
ああ駄目だ。やっぱり伝えられることが少なすぎる。
「まぁ…その。…ごめん、やっぱうまく言えない」
「いいよ」
ハルは柔らかく笑った。そうやって俺を甘やかすのもよくないと思う。いつも笑って俺を許すけど。
「よくない。本当に俺もハルに会えてなかったらきっと立ち直れてないことばかりだし」
その代わりに受けたダメージも大きいが。
「本当に感謝してるんだ。…いままで、ありがとう」
ハルが驚いた様子で身を乗り出した。
「瀬津がそんな、そんな風に話してくれるなんて激レアじゃん。俺、どこまで踏み込んでいいのか分からないこと、あったよ」
言われてみれば、確かに俺は俺自身の話をあまりしたことがなかった。いつも自分を隠すことばかりに気を取られて、自分でもどこまでが他人の許容範囲なのかが分からず、探りさぐりだったのだ。
「…せっちゃん、ありがとな」
顔を上げれば、ハルが眉を下げふわりと笑って言った。
「………おやすみ」
あまりにも目を逸らす気配がなかったので、恥ずかしさに耐え切れず布団を頭から被った。
だいたいなんて目で見てくるんだ、本当に。
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