第6話


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 目が覚めると隣のベッドに晴久が寝ているのを見て、一瞬体が竦んだ。すぐに旅行にきていたことを思い出し、息を吐く。寝顔はいつもの穏やかな顔ではなく、以外にも険しめといえばいいのか、普段下がっている眉が小さく寄せられていた。そんな顔を見て思わず笑った。

 昨日よりも心の中でもやもやとした何かが大きくなっている。それはきっと昨日夜にハルと話していたことが原因なんだろうとは、分かる。

 そりゃ、友達から殺してなんて言われたらぎょっとするだろう。俺もバカだった。しかもその記憶がないのだ。怖かった、とそう思われていた。俺だったらそんな情緒不安定な友達怖くて無理だわ、なんて自分のことを棚にあげて思う。申し訳ないことしてきたな。

「んん…あ、おはよ」
「おはよ」
「ああ〜今日帰るのかぁ…帰りたくねぇなぁ」

 布団の上をごろごろと動き回るハルに便乗して、起き上がりかけていた体をまたベッドに沈める。

 今日で最後。最後だ。もう当分会えないし、会わない。

「…ハル、新幹線何時だっけ」
「んん?」

 腕を伸ばしてスマホをとるその仕草にもドキッとする。寝起きはやたらと色っぽい。白の半そでTシャツから伸びる腕に浮かぶ筋肉から目を逸らした。

「わりと早めなんだよなぁ。ああ、六時だ」
「…そっか」
「なぁんだよ。…え?お前もうこっち帰ってこないとか言わないよな」
「帰るよ。まだ向こうに荷物あるし」

 そう言うと安心したように微笑し、大きなあくびをした。起き上がりぺたぺたと洗面所に向かう姿を目で追う。

 帰るつもりではいるさ。ただ、晴久に会うつもりはない。

 広い背中を見ていると、ムズムズとする。そういやもう全然抜いてねえや、なんて寝ぼけた頭で思う。

「うわ…俺今なに考えてた」

 身震いすると寝間着を脱ぎ捨て着替えを始めた。

 ずっと怖かった。目が覚めてからというものの、昨日のハルの言葉が頭から離れない。俺はそれを知ってもなお、これからもだまし続けるのだ。本当に、ずっと知ってたけど最低な人間だ。

 近いところにいる人間にほど、自分のこの性癖を言えない。ハルにだって、なんなら親にだって言ったことのない話だ。俺はいつまでこんなことに罪悪感を感じて自分を隠し続けなきゃならないのだ。

「瀬津ー?洗面台空いたけどー。瀬津?」
「あ、うん。ありがと」

 ひどいと思わないのか?自分に気を許してくれている、俺のことを信じてくれている人をだまし、ウソをつき続けるのは。自分が正しいとは思わない。こんな自分はいつだって嫌いだった。

 いつまで嘘をつき続ればいいのだ。どうすれば嘘を言わずに済むのだ。どうすれば対等な関係でいられるのだ。他人に自分を晒せないなんて大したことじゃないと思っていたのに、どうしてこんなに苦しくなる。

 俺はどうするのが正しい?

 冷たい水で顔を洗う。鏡に映った自分は相変わらず青白くて、血の気を感じない顔色だった。ただでさえ細い目がさらに目つきの悪い、ひどいことになっている。

「瀬津、電話きてるけど」

 不意打ちにびっくりし勢いよくタオルから顔を上げ振り返ると、その勢いに逆にハルが驚いていた。差し出されたスマホを受け取り画面を見ると浩二さんだった。

「ごめ、ありがと」

 俺から目を逸らさないハルに首をかしげると、慌てて出て行った。通話ボタンを押すとやけにテンションの高い浩二さんが出た。

「アロー!せっちゃん」
「…なんだよ」
「あれぇ?この前はやったらハイだったんに。今日はご機嫌ななめなの?」
「だから何だって」
「なぁんだよ失礼な。この前お前自分でいってたろー?ガイダンスのこと多分忘れてるから前日電話くれとか、言ってたろぉ?年上こき使いやがって、ああん?」

 いつもはダルそうにしゃべるのに今日は呂律も怪しい。普段低めの声は上ずったように高く熱っぽかった。

「…浩二さん、昨日何してた?」
「んー?」

 電話越しににやにやと笑っているのが目に浮かぶ。二日酔いか?
クスと笑う気配を感じる。

「えへへ。セックス」

 勢いに任せて電話を切った。


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