ネオンの微熱


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 些細なことで音信不通の親友のことを思い出す。俺が知っているのは、俺だけが知っていることは、最後に会った時あいつに言われた一つの告白。自分が同性愛者だということ。
その告白を機に一切の連絡は途絶えた。もうそれしか考えられないだろう。瀬津は俺は友達だと、親友だと言った。すなわち瀬津にとって俺は恋愛対象じゃない。だから、変わらずそばにいたかった。

 そんな、きっと怖くてたまらないだろう告白をしてくれたのだ。俺はなんの偏見もないから、今までと変わらずにお前のこと思ってるから。そう思っていることを伝えたかった。だから接し方が変わるはずもなく、同じように連絡をした。返事はなかった。心配になって何度も送ってしまった。返事はなかった。

 見限られたのだろうか。俺にとって唯一の存在だった瀬津。苦しんだことも多かっただろう。でも、どうして、会えない。全部ひっくるめて、俺はお前を認めてるというのに。どうして会ってくれない。拒絶されているのだろうか。俺がなにか偏見を持っていると勘違いしているのだろうか。違う、違う。

「そういえば、天野に会ったぞ」
「……は?」

 週末、地元の居酒屋でサッカー部の同期の連中と久しぶりに飲み会を開いたのだった。俺の気になってやまない情報は思いもよらないところから知ることになった。

「かっざまー!てめえ、卒業以来まっっったく顔も出さないで、いい度胸だなあおい!飲めぇ‼」
「くっそ、弱いっつってんのに」

 どこからともなく、別テーブルにいたはずの風間が赤い顔で近づいてきたら、俺を見るなりの第一声がそれだ。見た目と裏腹に酒に弱いらしい風間は、そんな風間に痛い目見せてやろうと酒を飲ませてくる連中から逃げるのに次から次へとテーブルを移っている。現役時代には決して見れない光景だった。むろん、飲ませる輩も酒に酔ってるからこそ、風間に飲ませようなんてことができるのだが。

「おい、風間!」

 瀬津に会った?お前が?

「ちょっと来い」
「ああ!裏切ったな樋本!」
「お前ら、飲むんもほどほどにな〜」

 外に連れ出すと、風間は火照った赤い顔を手で仰いでいた。あのサッカーバカで鬼教官じみた風間のこんな顔が見れる日がくるとは思ってもいなかった。しかしそれは今は置いておいていい。

「天野って言ったよな。お前瀬津に会ったのか?」
「ああ、それ。俺天野とは通学圏被ってるから。たまに顔合わせる程度だけど」

 風間は、風間は瀬津に会っている。俺でさえ会えないっていうのに。瞬間頭でも殴られたような、思いのほかずっと強い衝撃を受けた。
クッソ、どうして。

「瀬津と話すのか?」
「あ?まあ場合によるけどな」

 なんで。なんでだよ。俺とは会わないどころか、あの野郎連絡さえも完無視だぜ?
むずむずと怒りとも言えない感情が湧いてくる。安心とも、嫉妬とも呼べるなんとも言えない感じだ。

「瀬津…元気?」
「俺、あいつはやたら学校休むイメージしかなかったけど、ちゃんと大学も行ってるみたいだし、元気だったぜ」

 …ああ、よかった。なんだ、ちゃんと元気にやってるのか。ちゃんと進級できてるかな、本当に学校サボってないかな、また体調崩してたりしてないかな、ちゃんとおいしいもの食べてるかな。部活は、サークルは、バイトは…今、あいつは毎日どんなことを思って生活しているんだろう。


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