ネオンの微熱


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 六月の寒いんだか暑いんだか、なんとも言えない気持ちの悪い天気が続いている。土日を使って、初めてのインターンのため東京へ来ていた。人や車の多さからだろうか、東京の空気はムッと立ち上るような息苦しさがあった。

 東京なんて、片田舎よりもずっと狭いくせして人が多すぎる。この狭い都市のどこかで今日も瀬津は生活している。会えるなんてそんなドラマのようなことは考えてもいない。地元よりも狭いのに、母数が多すぎて確率はどこまでも低い。わかり切ったことであるが、それでもどこか近くに当たり前のようにいるのだと考えてしまうと妙な気分になるのだった。

 歩き慣れないスーツで背伸びした気分になって地下鉄に乗る。今はどんなに気になっても、余計なことを考える暇はなかった。
 
「え、樋本?」
「へ?」

 こんなところで聞くとは思ってもいなかった声に思わず体がぴくりと動いた。、振り返ると、そこにはスーツ姿の木下がぽかんとした顔で立っている。細身の体にぴったりとフィットしたスーツ姿は、私服であるときの中性的な雰囲気がいくらか緩和され逆に甘い顔立ちが際立っていた。
 
「あ…木下、あれ、もしかしてインターン?」
「え、お前も?」

 大学に募集のかかっていた会社だから、もしかしたら同じ大学の奴がいるかもしれないとは思ったが、わざわざ東京まで出てくる人が多いとは思わない。よりによって木下がいたとは。なんて驚くも、馴れない土地でさらに緊張しまくっていたインターン先で見知った顔がいたことに相手が誰であれ安心感がどっと押し寄せる。

 俺のそんな安心が顔に出ていたらしい。木下がどこかばつの悪そうな顔でそっぽを向いた。そんな顔をされて思い出すが、俺が木下に告白されてから大して時間は経っていない。結局どっちがフったのか分からないような結末になったが。
 
「…ま、いいや。じゃ頑張ろうな」
「え、あ、ちょっと」

 関わりたくないとでもいうような雰囲気で木下が人混みに消えていく。引き留めようとするにも、人目をひくような大きな声は出せず木下はすぐに見えなくなった。

 いくつか木下に確認したいことがあった。
 頭ではただ木下という伝手を利用しようとしていることは分かっていたが、他に頼れる人間がいない。確かな信頼がある人がいない。

 膨らむ違和感に早く名前がほしい。誰かに言ってもらいたい。嘘でもいいから教えてもらいたい。ただ気休めになる安心で構わない。

 どう動くかもどう判断するかも、全て俺が決めるしかないこと。今は分からないことだらけなのだ。俺は無知でしかない。少しでも瀬津のことを理解したかった。

 東京、インターン、木下。

 もはや必要なものがそろったようなものだ。俺はあくまで俺のことを考える。頭をぐちゃぐちゃにかき回す問題が少しでも解決に近づくなのら人を利用することにたいした罪悪感も湧かなかった。
 なんて言えば嘘になる。
 
「ほんっとクソだな、俺」


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