ネオンの微熱
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「…樋本?」
考え込んでしまった俺を覗き込む木下の声で我に返る。はっと気づき笑ってみせたが、曖昧な笑顔にしかならないそれはきっと胡散臭いだけだ。
「俺さ、連絡の取れない友達がいて。中学のころから一番仲が良かった、ずっと一緒にいた友達なんだ」
「そのくせ無視られてんの?」
可愛い顔してぐさぐさとえげつないこと言う奴。うるさいわ。俺だってへこんでんだ。
「そいつと最後に会った時な、言われたんだよ。…自分はゲイなんだって」
カランとお冷の氷が音を立てた。木下は表情を変えることなく、で?と言った。
「だからどうしたんだよ。ゲイの友達持ってる俺顔広くてスゲーだろって?はっ面白くねえ」
相変わらずひねくれてる。木下の本性は純粋に結構好きだったりする。思わずくすりと笑ってしまった。
「はは、面白いよね。へこんでんだよねー俺こう見えて友達少ないからさ」
「それは…樋本が誰に対してもそういう…」
「ほんと、たぶん俺の初めてできた対等な友達っていうか」
もっと知りたいとか、もっと知ってほしいとか。理解してほしいとか理解したいとか。どんな人なのか、見せてほしいと思えた相手だ。
「だから、あの時俺はどんな反応をしてやるのが正しかったのか分からなくて、今でも怖くなるんだよ。結果連絡は取れなくなってるわけだし」
「…」
「しかも俺とは会おうともしないくせに、違うやつとは会ってんだぜ。高校時代には大して仲良くもなかった相手なのに」
風間なんて顔だけ綺麗なただの狂犬だろう。何を従えてんだかまったく。相変わらず瀬津は変な奴に好かれるよな。やけにいじられるし、まあ傍からみれば愛されてたけど。
「…お前が俺に引かなかったのって、それがあったから?」
「…そうかもな」
「で?お前はそいつが好きなの?」
「…好きってどういう類の?そりゃ好きだけど」
男が男を好きになるとこだってある。それを知ってしまっては、言い方捉え方伝え方全てがひっくり返されたように気を使ってしまう。だって俺は瀬津が好きだ。会えないことが辛いくらいには、心配するくらいには、どうしてるのかなって考えるくらいには、会いたいって思ってしまうくらいには好きなのだ。
「友達として?」
もうそういうのはやめてほしい。どうして友達だとか、恋愛だとか区別をつけたがるのだろう。俺にはもう違いが分からない。どうだっていいだろ。そこまで大事なことなのか?
高校生のころ、カップルを見て「いいなぁ」とこぼした瀬津の憂いた顔を思い出した。あの時も俺は、俺たちもたいして変わらないだろう、と返したのだけれど。
瀬津があんなことを言うのも珍しくてよく覚えている。今思えば瀬津がああ言ったことには、自分はそうはなれない諦めのようなものも混ざっていたのかもしれない。
瀬津の言動にノーマルな人間と変わったところがあったか、と聞かれれば俺は全く変わらないと答えるだろう。でも、小さいところにどことなく隠れていたのだ。それを思うとなぜだかきゅっと胸が痛んだ。なんとなく寂しい。
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