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「誠司くん、窓開けるよ。換気するからせめて上着着な」
部屋の中ではたいてい高校時代のハーフパンツに伸び切ったスウェット姿だが、今の時期それではあまりにも薄着に見える。
どのくらい洗濯をしていないのか分からないその辺にあった厚手のパーカーを投げ渡すと、それを被りながら床にでろんと横になった。
「おおーさむ。いやぁ〜それにしてもよく働いてくれるねぇ」
「まったくだよ。なんで俺が世話をしなきゃいけないんだか」
「この調子で俺のこと養ってよ。俺もう亮ちゃんがいないと生きていけないよ」
「おばさんに言ってみろ。泣くぞまったく」
ケケケと笑いベッドから引きずり下ろした毛布をまた被る誠司くんに視線を向ける。猫のように細められた目が俺のことをじっと見つめていた。
「いつからこんなになっちゃったんだよアンタは」
「化けの皮がはがれただけだよ。俺は昔からずっとめんどくさがりだった。それなのに亮が後ろにちまちまくっついてきて可愛かったからさ、俺もあんときは調子に乗ってたんだろうなぁ」
「…別に今のアンタが嫌いなわけじゃないけど」
「言ってくれるねぇ可愛いな。ね、この調子で俺のこと」
「養わないから仕事を探せ。だいたい誠司くんくらい頭がよかったら働き口なんてクソほどあんだろ」
「働きたくないからいいんだよ」
将来のことなんて何も心配していないほんわりした調子で言うのだから呆れてしまう。本当に俺とあの時たまたま会わなかったらこの人はどうしていたんだろう。
ぬくぬくと布団を被ってうとうととする誠司くんの寝顔を眺めた。青白い肌にはシミ一つなくて、どこか消えてしまいそうな儚さがある。このまま、ずっと、この部屋で…。
いっそのこと外に出なくてもいいんじゃないか、と思った。誠司くんは綺麗だ。この肌も、まるで筋肉のない体も。切れ長の目も、その下のほくろも、室内の人工的な明かりに照らされているからこそ美しい。外に出てしまったらその魅力は全てなくなってしまうような気がした。
なんてことを考えて思わず頭を振る。俺はこの人を更生させる側の立場のはずだ。
本格的に寝始めた誠司くんの横顔に自然と手が伸びて行く。緊張で汗ばんだ指先が誠司くんの頬に触れた。陶器のような肌触りにぞわりと腹の底が疼いた気がした。
慌てて手を引っ込めたが、頭の中には漠然とした疑問がただ唐突にぽんと湧いて出たのだった。
「……そういえば、誠司くんっていつ抜いてんだろ…」
だいたい部屋の掃除をしているのは俺なのだからたいていのゴミやモノは見ている。が、いままでそれらしきものを見つけたことなどなかったのだ。
「だいたい誠司くんってそういうの興味あんのかね…」
神童と呼ばれ憧れだった誠司くんの欲望の的とは…いったいこの人は何に興奮して…
「んん…」
もぞもぞと布団の中で動く誠司くんが眉をしかめる。ちょっとした出来心で温まった布団の中に手を突っ込んだ。
手に触れたのは誠司くんの胸だ。さわさわと撫でると、小さく呻いて体を捻らした。そっと手を下に下ろしていくと下腹部に到達した。
どきどきと心臓が音を立てる。知らずうちに唾を飲み下していた。バレやしないか、こんなことをしていいのか、良心は確かに自身の手を止めようとしていた。
しかしそんな理性なんてまったく無意味に、自分の意思ではないように手は止まらなかった。服の上から性器をスッと撫でる。くすぐったそうに誠司くんが身をよじらせた。いけないことをしている自覚はあった。
「ん、んん…」
誠司くんのうめき声にハッと我に返り、そろそろと腕を布団の中から引き抜いた。どくどくと早打ちする心臓に、額に汗が浮くのが分かった。
いったい自分は何をしていたのだろう。
呆然とした顔で目の前の気の抜けた寝顔を見つめる。冷たい風が肌を撫で、慌てて開けっ放しにしていた窓を閉めにかかった。
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