2話 慣れても馴れるな


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 HRが終われば帰宅部が本気を出すときだ。即刻教室を出ようとしたとき、ポケットに入れたスマホが振動する。

 取り出して見て見れば、美化委員でペアを組んでいる大和からだった。

『悪い。今日屋上の当番代わってやってたんだけど、部活で行けないから代わって』

 相変わらず、聞けない人の頼みさえ引き受けてしまうバカだ。普段から大和が委員会の活動に顔を出すことは少ない。そのくせ、こうやって何か困ってる奴がいれば、引き受けてしまう人の良さ。しかし、そのツケは俺にまわってくる。

 拝むような絵文字に、へらへらと手を合わせる姿が目に浮かんだ。
 文字を打つのも面倒でテキトーなスタンプを送る。

「屋上風強いから行きたくないんだよなー」
 足を引きずるように屋上の階段を登れば、見知らぬ女子が前髪をいじりながら立っていた。

「あっ久世谷くん?ごめんね、代理頼んじゃって」

 美化委員はだいたいが2人一組で一つの清掃場所を受け持っている。この子は大和が代わりを引き受けた子のペアの子だろう。くっそ女子だったのか。引きつりそうになった顔に必死に力を入れた。俺たぶん今、めっちゃ怖い顔してる…。

「いや、いいよ。さっさと終わろう」

 名前も知らない女子が持っていた屋上の鍵を奪い取り、扉を開ける。今日は天気もよく、風も強くはなかった。

 放り出された古いロッカーから掃除道具を取りだすが、正直飛んで来た葉くらいしか掃除するようなものはない。生物の授業で使われる屋上庭園も、手入れのされなさに枯れかけていた。

「あ、あのっ久世谷くん!」

 上ずった高い声が掛かり、振り返ると、顔を赤くした美化委員の女子が目を潤ませていた。嫌な予感がする。早く帰りてぇ。

「あの…わたし去年同じ委員会になってからずっと久世谷くんのこと好きで…」

 うわぁ…

 思わず顔を歪めそうになり、ぐっとこらえる。ぞわぞわと不快感がせりあがってきた。
この目で見られるのが嫌いだ。

 媚びるような目も、愛されたいと欲が透けて見えて吐き気がしてくる。
 
「急にごめんなさい!付き合ってくださいとは言わないから、よかったら連絡先とか交換してくれない…かな」
「ごめん無理」

 ぶるっと震えて、止める間もなく反射的に言葉が口から出ていく。またやっちゃった、なんて罪悪感を感じるが、止めようがないのだ。しまったと思った時には大抵もう手遅れになっている。
 
「あっ……そ、そう…だよね。ほんと…ごめんね…」

 今回も、すでに涙目になった女子が、顔を引きつらせて屋上の階段を早足に降りて行っていた。
 
「……やっぱ俺が悪いの?」
「どうだろうね」
「うわっ」

 突然聞こえてきた声に当たりを見回すと、屋上のドアから藤崎先輩がちらりと顔を覗かせていた。
 
「ビビらせないでくださいよ」

 はぁっと溜息を吐けば、ハーフパンツにメッシュの薄いTシャツを着た先輩が屋上にたったと出てくる。
 だいぶ温かくなったとはいえ、まだその薄いTシャツは寒そうに見えた。
 
「部活じゃないんですか?」
「うーん?ちょっと久世谷くんが屋上に上ってくのが見えたから」
「知らない人についていっちゃいけません」
「イケメン見るとついやっちゃうんだよね〜」

 日常的にイケメン尾行してるのかよこの人。
 
 いつか瀬戸が言っていた、藤崎千紘はとんでもないメンクイだという噂は本当らしい。
なんだろう。なんだか悔しい。いくら先輩が俺の顔が好きだろうが、それが俺である必要はないわけで。

「好きです」
「えっ?」

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