4話 シークレットダーリン


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 地味な高校生活に加わるべきは華だった。

 それは決して同性の先輩によるわいせつ行為(仮)でもなく、汗臭い男との友情でもない。

 かといって、生肌をさらけだし安物の香水を振り撒く高校生の女かと言われれば、それはそれでどうかと思う。
いや、俺そもそも女無理だったわ。
 
「えぇーだったら俺のが華じゃない?」
「どの辺がだよ」
「いやほら、俺去年の国体とか出てるし、こう見えてけっこう高校で実績残してるよ?表彰台だって何回も乗らせてもらってるし。ブランド力と制服に物言わせるJKよりもよっぽど華があるでしょ」

 すっかり生活の一部に入り込んできている先輩と中庭で弁当を食べながらなんでもない雑談をする。なんでもない雑談にしては思っていた以上に先輩の経歴がすごくて、米粒を吐き出しそうになった。

 国体選手だったの、この人…。

 前に大和ら強化部活で上の大会に行く人達の壮行会があったけど、そこに紛れてたのか。
 
「…まぁ確かに…そりゃ先輩にとっては華の高校生活だけど…でも俺にはそれ関係ないし」
「俺にとっての華はダントツ久世谷くんだなぁ。久世谷くんが入学したことで俺の高校生活はバラ色になったよね」

 隣でのうのうとヘンタイ発言をする先輩。これは正直男に言われても嬉しくないセリフのランキングがあればかなり上位に食い込むだろう。
 
「だいたいこの期に及んで何を求めるんだよ久世谷くんは。その顔面さえあれば行く道全てが花道だろ。俺で中和されるぐらいがやっぱちょうどいいんじゃないの?」

 珍しくクマを作った先輩が、寝不足の目付きで膨れながら言う。別に俺みたいな陰キャが、そんなきらびやかな花道をたどれるとは思えない。せいぜいドクダミ畑くらいのもんだろう。
 
「中和どころか焼け死にますよ、俺が」
「え!?俺そんなひどい怪物みたいなんなの!?」
「いや、そうじゃなくて…」

 なんか先輩ってキラキラしてるから。基本的にテンションが眩しい。
 そんな恥ずかしいことを口ごもっていれば、ふいにどこからか携帯の通知音が聞こえた。ハッとしたように先輩がポケットからゆっくりとスマホを取り出す。

 不思議に思ったのは、その時一瞬先輩の表情が固まったからだ。常に飄々とした笑顔を絶やさない先輩は、基本顔に感情が喜と楽しか出ない。だからなかなか掴めない。

「…先輩?」
「んー?」

 顔を上げた先輩はいつも通りだった。目が合うと、きゅっと目を細めてすぐに瞳が見えなくなる。
「…久世谷くん、今日シよっか」

 掠れた声がそう告げた。

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