4話 シークレットダーリン


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「先輩…痛くない?」
「……ぅん」

 この間のように先輩を押し倒した、慣れない正常位。俺を見上げる先輩はさっきから目を逸らしていて、俺のことを見てくれない。いつもは許してくれない、先輩の秘部へ手を伸ばし、ローションを絡ませた指を入れる。どうやってするのかなんてよくわからないけど、今はとにかく先輩に優しく、そして気持ちよくなってもらいたい。

 入口を時間をかけてほぐしていく。指はもう3本ほど入るようになって、今度は中で指をバラバラに動かした。なんて言うんだっけ…そう、前立腺。先輩がいつも気持ちよさそうにしているのは、ここが男の性感帯だかららしい。

 いつもどこで先輩が感じているかを思い出しながら、指で中を探る。ふと指が固い部分に当たったとき、先輩が震える息を吐き出した。先輩の顔を見ると、必死に声が出ないように堪えている。

 なんか今日の先輩はおとなしい。いつもの余裕はないし、体にも力が入っている。

「今のここ、気持ちいい?ねぇ先輩……力、抜いて…」

 いつもよりずっと優しく問う。それでも、先輩の体は強張ったままだった。

 指は動かしたまま、先輩に顔を近づけると、震える薄い唇を軽く噛んだ。

「下手でごめん…でもちゃんと先輩のことよくしたい…」

 力んで、吐き出される息ですら小さく震えている。なんとか力を抜けないか、とついばむようなキスを繰り返した。先輩の性器からたらたらとこぼれる先走りが腹に当たって、ちゃんと先輩が感じていることに安心する。

「もう入りそう…」

 ちらりと先輩の顔を確認すると、相変わらず先輩は目をそらしてこっちを見てくれなかった。

「……いい?」

 さすがに嫌がられたくない。確認するように先輩の顔を覗き込むと、赤い顔で先輩は俯いた。それを肯定ととっていいのかは分からなかったが、もう自分もそろそろ苦しかった。

「先輩、挿れるよ…んっ」
「っ…」

 熱いなかが気持ちいい。目下の先輩は唇を噛みしめてふるふると震えている。それでもずっと勃ったままだから、ちゃんと気持ちいいんだろう。

「痛く、ない…?」

 先輩が小さく頷いたのを確認して、さらに奥へ自身を埋める。

 俺はちゃんと優しくできてるだろうか。先輩がいつもよりおとなしいからいまいち反応がつかめない。

 そろそろと先輩の様子を見ながら挿れていく。

「ん…全部はいった…まだ動かないほうがいい?」
「……いい…」
「ん?」

 消え入りそうな声で先輩が言う。

「いい……動いて、いい…」
「うん、わかった。痛かったら言ってね」

 最初はゆっくりと、いいところに当たるように。先輩は赤い顔を隠すように、腕で顔を覆っていた。どうしても顔が見たくて、その手をどけたくなったが、拒絶させそうな気がしてやめておいた。

 相変わらず先輩は小さく震えている。いつもなら抑えきれず漏れてしまう声も、今日はやけにエロい吐息が漏れるくらいだった。それはいつも以上に先輩が堪えているからなのか、俺が下手だからなのか。

 後者だったらけっこうへこむ。なんて思いながら、揺さぶるスピードもだんだんと速まってくる。

 目に入った先輩の口元はやっぱり震えていて、もう一度キスしたい衝動にかられた。先輩に顔を近づけた時、耳に入ったのは、堪えるような吐息ではなく、しゃくりあげるような声だった。

「……ふっ……う、」

 思わず動きが止まる。

「………せん、ぱい?」
「……っんで…」

 顔を腕で覆って小さくしゃくりあげる先輩は、泣いていた。

 隙間から見える頬が光を反射してキラキラ光る。地面にも、先輩の涙の跡なのか、ぽつぽつと色が変わっているところが見えた。

 でも、なんで…

 何がいけなかったとか、悪かったとか。そんなこと思えば今更過ぎて、何も分からない。いつも通りだったらこんなにならなかったのだろうか。先輩にとって俺はどんな嫌なことをした?

 どうしよう、どうしよう。泣かせてしまった。どうしよう。

「なんでっ……優しく、するの…?」

 とぎれとぎれに先輩は言った。上ずった声は途中で裏返って、さらにしゃくりあげられた。

 なんでって…。そんなん、俺、先輩が…

「なんで…!」
「……ごめん…」

 ぼろぼろと涙をこぼしながらそう繰り返す先輩に俺は謝ることしかできなかった。
なんで…?こんな、こんなはずじゃなかった…はず。俺は、俺は先輩に嫌われたのだろうか。先輩に嫌な思いをさせてしまった。また俺が気づけなかったから。

「…ごめん…ごめ、先輩…あの…おれ、」
「…いい」

 ずるり、と先輩の中に留まっていたモノが抜けた。先輩が逃げるように身を引く。さぁっと体が冷えていくのが分かった。

「も、いい…。帰る」

 最後まで俺の目を見なかった先輩が、サッと下着と制服を掴んでふらつきながら駆け足で去って行く。引き留めようと伸ばした手は、宙で迷った。ここで引き留めて、それで先輩にもっと嫌な思いをさせるかもしれない。そんなことはしたくない。

 ただ小さくなっていく後ろ姿を呆然と見つめることしかできなかった。

 急に辺りの気温が下がったように感じる。

 世界ってこんなに暗かったっけ。

 いたる所が痛い。ズキズキと、どうしようもない痛みが顔を歪ませた。

 なにこれ、しんどい。もう、何もしたくないかも。

 ろくに人を好きになったことがないから知らなかった。人を好きになるって、こんなにも苦しいんだな。

「千紘先輩…」

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