5話 迷妄モラトリアム
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あの日先輩を泣かせてから一週間が経った。毎日のように顔を合わせていた先輩ともう、一週間会っていない。何がいけなかった、とかもうそんな自分本位なことなど考えられなくなった。もう、ただ謝りたいのだ。
ひどいことしてきたな、と今になって思う。今となっては俺の好きな人。これまでの自分の馬鹿さ加減に呆れる。お前は先輩をなんだと思っていたんだ、ともう何度自分を叱りつけたことか。
俺はいい気になって、ずっと調子に乗ってただけだ。
男とするなんて、そりゃ嫌だろう。俺は心のどこかで先輩は俺の顔が好きだから、先輩はいつも俺に自分からしかけてくるから。だから俺からやっても問題ないだろう、そんなことをしても嫌われないだろう、と自惚れていた。
先輩だって女を抱きたいって普通に思ってた。それなのに、男の俺にいいように突っ込まれて、そんなの当たり前だが屈辱だろう。
当たり前のことにも気づけない馬鹿な俺。先輩は俺のこと受け入れてくれてるからって、そんな風に思って。体にも負担かかってるっていうのに、それにもろくに気を回してやれなくて。
許してもらいたいわけじゃない。ただ謝りたい。
「はぁ…」
「鬱だねぇ久世谷ー」
「うん」
「俺も最近雨で練習できないからテンション上がらないんだよねー」
珍しく昼の清掃に大和がいる。電気をつけていない薄暗い更衣室には、雨が木の葉に当たる音が響いていた。
「そういや、こないだの先輩とはどうなの?」
「…どうもこうもねぇよ」
「つかどういう関係なの?」
「………うっせ」
先輩のクラスは知っている。先輩の部活も知っている。連絡先だって持っている。
もう毎日のように、連絡先を出してはメッセージを打って消して、眺めてを繰り返している。ただ会って謝りたい。謝罪と共に話したいことがある、とそれだけのメッセージが送れない。
自分がこんなに女々しい奴だったとは。
「…はぁ……」
「クッソ重いんだよ、お前の溜息」
「ちなみに体重も重い」
「え、以外」
やっぱり嫌われたのかな。態度に出されるまで気づかないなんて最低だろ。
会いに行く勇気はないくせに、会いたい会いたいと思う小心者。会って、謝れたとしても、きっともう俺は先輩に好きになってもらえない。それを考えると、先輩の顔を見ることですら怖いと思う。謝りたいと思うのに、そうしてしまったらそれと同時に終わってしまう。
案外ちゃんと恋愛できたんだな、と思う。自分はつくづくどこかおかしいのかと思っていた。でも、ちゃんと人のことを好きになれた。結果的にはそれを自分で叶わない形に壊すことになってしまったけれど。
これくらいされないと、フェアじゃない?
俺だって今までさんざん女の子のことを傷つけてきたのだろうから。
「はぁあああ」
「だから重い!」
相変わらず外は止む気配のない雨模様だった。
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