5話 迷妄モラトリアム


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「溜まってた?久世谷くんかわいいね」
「の、飲んだんですか!?出して!吐いて!ペッです!ぺッってしてください!」
「やぁだ〜…あ、じゃあ代わりにチューしてあげる」
「なんで今なんだよ!」
「イケメンの精液、ちゃんと味確かめとけば?」

 しゃがみこんだ俺の腕を引いて先輩が顔を近づけた。熱い息を吐きながら先輩の唇が当たる。微かに匂うのは、確かにツンと鼻につく独特な匂い。

「…マジですんません」

 俺も口に思いっきり出すとは思ってなかった。

「ううん。サイコー。あ、でもちょっとくらい残しておけばよかったなぁ…そしたら冷凍ほぞ…」
「先輩ほんと変態」
「だ、だって久世谷くんのだよ!」
「………それ言って許されるの、俺が先輩のことどうしようもないくらい好きだからですからね」

 頭を抱えて先輩の顔を窺えば、へにゃへにゃと力の抜けた笑みを浮かべている。その先輩の細い腕がまっすぐに伸びてきて、肩を掴まれたと思った時には視界が反転していた。講義室の汚い灰色の天井が見える。

「そっかぁ…好きなんだぁ…」

 暗い蛍光灯が先輩の顔に隠された。俺を上から覗き見る先輩ががっつりと馬乗りになったせいで身動きが取れない。先輩はよだれでも垂らしそうに、鼻息荒くして俺を見下ろしている。とろけそうなほど、見ていて恥ずかしくなるくらいに嬉しそうな、幸せそうな顔。

 イかされたのは俺だというのに、ラリッてんの?っていうくらい先輩のほうがトンでる。そんな先輩を見上げなら、正直若干身の危険を感じたが、前みたいに寂しそうな顔だとか、ぎこちない顔だとか、泣かせるくらいなら、変態らしく笑わせてるほうがずっといい。

 諦めて先輩の好きにさせようと全身の力を抜いた時だった。

「好きだよ」

 すとん、と落ちてくるような声だった。玄関出たら出くわしたご近所さんからの朝の挨拶みたいな、本当に何気ない、何でもないような。

「え…あ…」

 悪戯っ子のような目でもない、感情の読めない目でもない。見上げた先の真正面の瞳は綺麗に澄んでいて、なんだかずっと触れられなかった先輩の核心に触れているような、手を突っ込んでいるような、ようやく許されたような、そんな気分だった。

 じわじわと顔に熱が集まっていく。熱さでどうにかなりそうだった。

「今更赤くなんないでよ。久世谷くんかわいいね」

 ふっと笑った先輩が首元に手を伸ばしネクタイを解いて、鎖骨のあたりに口をつけた。くすぐったいような、気持ちいいような不思議な感覚だ。

 そんな感覚に意識を向けていると、ふいにおしりに冷たいものが当てられた。

「うわっ」

 思わず体を起こしそうになったところを先輩の腕で止められる。

「え、なに…なに…」
「なにってー…別に大したもんじゃないって、ローション」

 先輩が俺の後ろに当てていた手を見せて、目の前で糸を引くローションを指でにちにちといじった。

「い、挿れん…の…」

 普通に怖い。よく考えれば入るわけない。今までの先輩ってどうなってたんだ…?
いや、でも、ここでビビるのなんてかっこ悪い。そうだ、俺はもっとどっしり構えていないと。

「だって善がる久世谷くん見たいし」

 にたぁと笑った先輩が荒い息を吐き出した。

 つぷ、と侵入してきた先輩の指はたぶんまったく入っていない。穴を広げるようにやわやわと動かされるが、変な感じしかしなかった。

「大丈夫。まだ慣らしてるだけだから、ちゃんと気持ちよくしたげる」

 だんだんと指が奥に入ってくるのを感じた。
 なんだろう、これ。異物感に圧迫感…。

「んあっ」

 突然変な声が出て、びっくりして先輩の腕に縋り付くように手を伸ばした。

「なんか、今…今…」
「やっぱりハメ撮りするべきだったな……」

 真顔で心の声がダダ洩れの先輩に助けを求めても意味はなかった。しょうがないから先輩の腕を握ったまま一度深呼吸を繰り返した。その間にも先輩の指は入口付近をぐにぐにと慣らしている。

 さっきのところが、前立腺ってやつなのか…。たぶん、あれヤバイ。

 少し落ち着いた頭で、さっき一瞬体に走った感覚を思い出す。

「そんな心配しなくても大丈夫だよ」
「…っ、ふ、」

 掴んだ腕をやんわりほどかれ、代わりに指をからめられた。気づかないうちに体に力が入っていたみたいだった。緩く俺の手を握った先輩の手がそのまま腹を伝って、ひくつくモノに触れる。

 先輩の手に握られたモノはすぐに大きくなっていく。そんな自分の反応が恥ずかしくて、でもどうにもできなくて、ただされるがままに先輩に抑え込まれている。

 容赦なく扱かれているうちに後孔を犯す手も、激しさが増していく。ピンポイントに弱い所を突かれて叩かれて、情けなく腰が跳ねていた。
 
「ふっ…あっんっ…」

 自分の体じゃないみたいだ。恥ずかしさで死にそうだ。

 まだイってないのに、変な感じがずっと続いている。これが気持ちいのかはよく分からないけど、ただ圧迫感と衝撃に混ざって全身に響く麻酔みたいな妙な感覚。

 恐る恐る先輩の顔を窺うと、さっきまでの変態親父みたいなだらだらに緩み切った表情が一変して険しいものになっていた。
 
「…千紘、せんぱい…」
「…やば」

 正直言って、怖い。この険しい顔の先輩ももちろん怖いけど、それより今まで感じたことのない大きな波のほうが怖い。

 だんだん扱かれているのが気持ちいのか、後を弄られているのが気持ちいのか分からなくなってきた。
 手を伸ばして先輩の体に触れる。赤い顔で荒い息を吐く先輩がにやりと笑った。

「うぁ…はっ……あれ…え…?」

 先輩が俺のものを握る手にぎゅっと力を込めた時、量こそ少ないものの白濁が飛び散る。先輩は笑っていたけど、その顔にいつもの余裕はない。
 
「挿れるよ、久世谷くん」
「え、待って、俺今イった…ん、はぁ」

 入った?まったく感覚がない。痛く、はないけど。
 思わず閉じた目を開けば、先輩の顔が見上げた先にある。

「はは…先輩が俺に乗ってる…なにこのアングル…似合わな…」
「俺も前にそんなこと言った気がするかも……押し倒されてる久世谷くんってのも、色気がすごいね…」

 腕を伸ばして先輩の首に回せば、先輩からのキスが降ってきた。

 先輩の乱れた呼吸を聞きながら安心する。

 正直圧迫感で苦しくてたまらないけど、まぁ先輩がよさそうなら別にいいか、とどこかで思っている自分がいた。先輩はゆっくりと動き始める。
 
「俺は久世谷くんがアンアン喘いで善がり狂うまでが目標だから」
「いや、おい、ちょっと…っ!」
 


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