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普段は昼を屋上で食べているのに、今日は園田に話しかけられたせいで教室で食べることにした。いつもと違って周りがうるさい。でも誰も俺のことなど気にしていないようだった。空気のような存在だから、普段はいない奴がいても誰も気にとめない。
唯一、普段俺の席を借りて飯を食ってるらしい男子が少し驚いたような顔をしていたが、幸い何かを言ってくるようなことはなかった。
「ぎゃははははっ、お前これ撮ってたの?」
「うっわ〜えげつねぇ〜エッロ」
「マジ? 普通にキモくね?」
品のない笑い声が教室中に響く。他クラスから柄の悪い男たちが箱川の周りへ集まっていた。これが昼休みの日常なのだろうか。迷惑そうにしているクラスの女子や、居心地悪そうに声のトーンを落とす様子を見ていれば、普段教室で飯を食わない自分が勝ち組に思えてくる。
周りを気にすることもなく、静かな場所で昼を過ごせる最高な場所だったんだけどな。もしまた園田に絡まれるかと思ったら足も遠のく。別に話したくないわけでもないし、少なからず人と話せることに対する嬉しさはある。ただ、うまくできる気がしない。
他愛な話をできる関係にあこがれてるくせに、そこに至るまでの過程が怖くて逃げてしまう。こういうところだ。こうやって嫌なことを避けてばっかだからいつまでたっても一人なんだ。
わがままだし贅沢な話だ。自分可愛さに逃げてばっか。本当に友達がほしいなら、一人が嫌なら、そんなもの天秤にかければ一発なのに。そんなことをしなくても、側にいてくれる人間が一人。
「つーかこれ、なんか売れそうじゃね? この手の変態雑誌とかに応募したら一発で通りそう」
「ははっ確かにポルノ受けよさそう」
さっきからうるせぇな。耳が痛い。
どうせ箱川たちが話しているのは汐のことだろう。あいつどんだけ気に入られてるんだろうな。これまでに陰湿ないじめはたくさんあったけど、高校に入ってからがピークな気がする。
中学生の頃は頭から泥水ぶっかけられたり、靴隠されたり、教科書捨てられたり、まだ可愛いものだった。かわいいと言っても、汐のからだが満身創痍なのは変わっていないけど。
「今日あいつ口切ってなかった?」
「ああ、あれ。箱川が投げた筆箱が口に当たってた」
「いや、なんで避けられねぇんだよ」
ぎゃはは、とうるさい笑い声。
汐がどんくさいのなんか知ってんだろ。あいつが避けられるとか思ってんのか?
たいていいじめっ子たちは汐の顔は狙わないことが多い。顔に傷つけられたら目立つからな。何かあった時も言い逃れ出来ないだろう。だから蹴りやパンチもだいたい腹にヒットする。だけどろくに受け身も取れない運動音痴な汐は、転んだ先で顔面から倒れたりして、自分でケガをひどいものにしていることが多い。
やっぱり教室で弁当なんて駄目だな。園田が怖くても部室棟まで行けばよかった。他人の目ばかりが気になってしまう。居心地が悪い。視線が怖い。こんなに人がいても、反発しあう磁石のように、綺麗に俺だけが浮いている。
おまけに教室のざわめきのなかでも一際大きく聞こえるのが、この連中の声だとか。
「箱川くん! 遅くなってごめん!」
舌打ちしそうになった。ただでさえ気分の悪い会話だったのに、そこにさらに爆弾がぶち込まれたような気分だ。
汐の声はざわついた昼休みの教室のなかでも、響き渡るように綺麗に通る。近くでまとまって弁当を食べていた女子たちが、一瞬ぱっと汐を見やった
「相楽くんだ」
「かっこいい…」
「なんかもう本当、残念だよね。見れば見るたびお願いだからしゃべらないで動かないでって感じ」
女子たちはそう酷評しながらも、ちらちらと汐を確認していた。他の女子もしかり。
「でも声はよくない?」
「わかる、めっちゃ好きー」
ああ、もう。苛々する。いますぐ汐の顔面にこぶしをぶち込みたい。もしくは、ぼこぼこにされる汐が見たい。
「あれ…?」
汐の瞳がこちらを向いた。何かもの言いたげな視線が俺を窺っている。
もう我慢が出来なくなった。さっと立ち上がると、小走りで教室を出る。もういいや。園田とかどうでもいいから屋上に行こう。
振り返って教室に耳を澄ませば、箱川が低い声で汐に何かを言っているのが聞こえた。何も聞き取れはしないが、教室がさっきより静かになっているから、周りがドン引くような脅しでもしてるんだろう。
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