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 観念してスマホをポケットに入れ立ち上がる。気は重たくなるばかりだ。なんでこんな気分を味わってまで人と話に行こうなんて思ったのだろう。苦痛でしかない。でもこれを乗り越えないと気の置けない友人なんてものは一生手に入らない。俺はそうまでしてそんなものを欲しがっているのか? 違う。俺は寂しいだけでこんな苦痛を味わいたいわけじゃない。誰か褒めてよ。俺の側にいてずっと俺を肯定してよ。そうじゃないと死んでしまう。

 つくづく嫌な人間だ。自分が嫌いでしかたない。

 頬に日が当たる。眩しさに目を細めた。一歩踏み出せば、シャワーから水がでる耳に心地よい音が聞こえた。季節のわりに熱いからか、蒸発した水分が土から上がっていくのが見える。芝生を踏みしめたわずかな音に、作業着を羽織った園田が振り返って顔を明るくした。

「志島くん! やったぁ来てくれたんだ! お弁当食べるの? 今芝生濡れてるからベンチで食べるといいよ!」

 芝生や周りの花に水を上げていた園田が空いた手で普段は使わないベンチを示した。この距離で返事をしても、それが届く自信がない。頷くに止めて俺はギクシャクした動きでベンチへ向かった。普段の眺めとは少し違う。視界が少し上にずれたようで、渡り廊下や校舎裏などが見えなくなった。見えなくなって初めて、自分がいかに普段そこを意識しているのかが分かる。

 ここにいても、汐を見つけられない。

 そんなことが頭に浮かんで、思わず「キモ」と呟いた。どんな趣味だよ、人が虐められてるところを好き好んで見てるとか、気持ち悪いにもほどがある。今日も汐は箱川たちに何かされてるのだろうか。何かさせられているのだろうか。

 どうでもいいけど。

 箱川もすごい執着。顔はそこそこ整っているのだから、あんなことをしていなかったら人気もあっただろうに。何か契約でもしているのか? 気持ちだけであんなに誰か一人に執着してつなぎとめて置くなんて本当にできるのだろうか。もしそれができるのであれば、とても羨ましい。いつ離れていくか分からない曖昧な関係なんて怖いじゃないか。

「志島くん、ちょっとつめて、俺隣座る」
「……」
「え、ちょっとそんな端まで行かなくていいのに。そんな離れて座るの?」
「……え、っと」

 水で濡れた手をハンカチで拭きながら、園田が眉を上げる。

 普通が分からない。隣に座るって、なに? どのくらいの距離から隣になるの?

 ぎりぎりまで端にずれた俺のまさしく隣、肘が触れ合うほどの距離に園田が座った。これは俺でもわかる。近すぎやしないか?

「そ、それは、近くね?」

 園田はそのまま透けて消えてしまいそうな笑顔をうっすらと浮かべると、俺の顔を覗き込んだ。今度は肌が触れそうで、もはや焦点が合うぎりぎりのところに園田の顔がある。きめ細かい肌に小さなホクロがいくつかあるのが見えた。相変わらず日に当たっても濡れるような黒の髪だが、瞳孔まで茶色に透けることがない黒だったことには今始めて気がついた。

 が、そんなことはどうでもいい。園田の息が頬にかかる。

「そう? 普通だよ」

 普通なの?

「で、でも、息、当たってる」
「普通だよ」

 本当に? 嘘だろ。
 でも、園田にそんなことが言えない。

「そう、なの?」

 何言ってんだよ、絶対嘘だろ。俺は馬鹿なのか? 上ずった声に園田が笑う。俺も俺を笑ってやりたい。でも、顔の筋肉は硬直したようで、冷や汗も流れ始めた。もぞもぞと動けば膝の上に園田の湿った手が乗せられた。体を触れられるなんてあまりに慣れてなさすぎて、思わず肩がびくんと揺れた。息を飲むような音が耳に入る。自分が情けない。なんでこんなに動悸がするのだろう。どうして体が震えてしまうのだろう。俺は処女か?


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