V
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体の震えは園田にも伝わっているらしい。クスクスと笑っているのが分かった。とてつもなく恥ずかしい。
「これが普通だよ。志島くん、かわいいね」
「で、でも、ほら……パーソナルスペース? とかあるじゃん」
「ああ……」
どうにかこうにか絞り出した言葉に、園田が納得したように低い声を出した。なるほど、といった目をして俺から離れていく。ようやく息苦しさから解放された気分だった。
「俺のパーソナルスペースなんて皮一枚分くらいだけどなぁ」
それはみんながそうなのか? さすがに狭すぎないか?
ぱちぱちと瞬きをしながら、人一人分ほどの間を空けた園田を見た。園田の顔にはさっきまでのような笑顔は浮かんでいなくて、代わりにどこか不満げな様子がうかがえる。
「志島くんのパーソナルスペースはじゃあ、こんくらい?」
なんとなく声が固い。さっきのは拒絶ではないけれど、それでも気に障るような言葉だったのかもしれない。俺が嫌そうにしたから。
「え、っと」
「まーあこんくらいかなぁ。いいんだよ志島くん。別にすぐに懐いてもらえるとか思ってないし」
謝るべきなのか悩んでいる間に、にぱっと笑った園田は一変してぺらぺらとしゃべり始めた。またしても罪悪感だけが積もっていく。
「志島くんは部活とか入ってないんだっけ」
「なんも」
「そっか。家では何してるの?」
「……なにも」
「えぇーなにかあるでしょ」
気を悪くすることもなく、園田はケラケラと笑った。
「俺なんて特に何も意味ないのにスマホいじって、気づけば1時とかになってるんだよね」
呆れた様子で園田が言う。見かけに似合わずな感じだ。どうにも見当違いの答えをしてしまうんじゃないかって怖がって誤魔化してしまったが、俺も似たようなもの。
「……俺も、ゲームしてたらそのくらいになってる」
「ほう! ゲームしてるんだ。どんなの?」
なんでそうぽんぽんと途切れることなく会話をつなげられるのだろう。俺にもできるのかな。なにか、なにか質問をすればいいのか?
「俺は、なんかアクション系の……」
手のひらに汗がにじむ。園田は人一人分空けたところから俺をじっと見て、急かさずに待ってくれている。俯きがちだった顔を上げて園田の目を見た。
「そ、園田、は……」
「うん」
「あ、えとゲーム……」
緊張で視界が揺れるように感じるのは、不自然な瞬きを繰り返してしまうせいだろう。うまく舌が回らない。目の前もチカチカしてきた。やっぱりうまくいかない。
「……いや」
チャイムが鳴った。時間切れだ。俺がうまく話せないから。三秒あれば言えたことを俺はいったい何秒かけて言おうとして、言えなかったのだろう。自分が嫌になる。こんなの友達の一人もできないことにも納得だろ。
どうして他の人にできることが、みんなにできることが出来ない。どうしてうまくいかない。
単純にトライアルアンドエラーが足りてないと言われてしまえばそれまでだ。誰もができることなのに、かかるストレスが違いすぎる。そんなものは言い訳に過ぎないし聞き飽きた。自分は特別ではないのだ。だからこそ人と会話するくらい絶対にできるはずなのに。
「……戻る」
「そうだね。また明日」
中性的な笑顔はなんとも言えない不思議な魅力を持っている。立ち上がりざまに俺の肩にぽんと触れた。見上げれば淑やかな顔に切れ長だがキツくなりすぎない目が俺を見下ろしている。
またおいで、とそう唇が動いた。
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