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「……雨かよ」

 朝のニュースによると、なんと20日ぶりの雨らしい。灰色の空を見ていれば気分が落ち込む。分かりやすい体質だが、俺は晴れてると元気だ。天気が悪いと悲しくなる。

 繊細な男だよな。だから世界ももう少し俺に優しくしてほしい。

 憂鬱な心で廊下に出れば、同じくちょっと元気のなさそうな園田に鉢合わせた。日の光がないからか、廊下の蛍光灯の下で見る園田は深海から這い上がってきたみたいな雰囲気を醸し出していた。

「あー! 志島くん!」

 青白い顔していながら、そのテンションは変わらずだ。今日の俺にはちょっとばかしダメージが大きい。軽く会釈のようなものをしてみたけれど、もっとちゃんと手を振るとかしたほうがよかったのだろうか。

「雨だねー。でも空明るくなってきたしそろそろ止むかな?」
「……さあ」
「もともと小ぶりだったしね」
「そうだな」

 窓から空を覗けば、確かに厚い雲から太陽の輪郭が見えた。降ってくる雨も糸のようなもの。

「これからお昼? ねぇ、部室にいかない?」
「……え」
「一緒にお昼食べようよ!」
「あー……うん」

 半ば連行されるように連れ出された。


 部活に所属していない俺は部室棟の中に入るのは実質初めてだった。雨で運動部が昼練をしていないからか、いつも多少の声が聞こえる部室棟は閑散としていた。弾むような足取りで園田が前を行く。園芸部の部室は二階の一番端、屋上への中階段のすぐ隣だった。

 部室に入れば、湿気とともに土の匂いがむわっと香る。薄暗い。横にあった電気のスイッチを押しても、天井の蛍光灯はつかなかった。

「あー、これ切れてんだよね。今の時期はいいんだけど、冬は早く活動終わらせないと手元見えなくて部室に備品戻せないんだよ」
「へー……一人で全部、やってる、の?」

 言い始めてから緊張がやってきて尻すぼみになってしまった。園田は相変わらず青く見える顔で笑うと快活に答えた。

「まぁね。みんな活動来ないから」
「それは……すごいな」
「んふふ」

 園田は嬉しそうに笑うと、中央の机を囲む椅子に座り、こっちを向いておいでおいでと手招きをした。俺は少し迷って園田の向かいの椅子に座った。

「なーんだ、そっちか」

 いや、なにもおかしくないだろ。なぜ椅子があるのにわざわざ隣に座る必要がある?

 早速弁当を広げて食べ始めた俺を園田はにこにこと笑いながら見ていた。よく見れば園田はお昼ごはんを持ってない。

 じっと見つめられる居心地の悪さに、つい箸を持つ手も止まった。

「……昼ごはん、ないの?」
「いや? 俺はいつも早弁。もう食べた」

 頬杖をついて向かいの俺を眺めていた園田はすい、と視線を窓の外にずらした。雨音は聞こえない。雲の隙間から太陽が顔を見せていた。

「雨、上がったね。ちょうどいいから測定に行こうかな」

 ぽそりと園田が呟く。園芸のことなんて何一つ知らない俺は、園田の言う測定が何なのかが分からない。ちらりと俺に視線を戻した園田は、そのまま口角を上げて口だけで笑って見せた。

「一緒に行く?」

 まるで来い、と強要しているかのような目だ。ちょっと怖い。俺は迷わず頷くと、急いで残りの弁当をかき込んだ。

 そんな俺を見て園田がくすくす笑っている。

「行こっか」



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