V
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走って息が上がったことで余計に興奮が後押しされたのか、園田に噛まれた時と同じくらい、どきどきしていた。さすがに校内を一人で馬鹿みたいに走るのは目立つ。頑張って呼吸を整えながら、荒い息で廊下を歩いた。
教室に近づけば、箱川たちの笑い声がここまで届く。明らかに教室からじゃない。たぶん廊下でなにかやってるんだ。汐に鉢合わせしないといいけど。
収まらない動悸に苛々しながら角を曲がって教室へ行こうとした時だった。
ゲラゲラと笑う下品な笑い声と共に、首に大きな衝撃を感じた。
何事かと考えた時には、視界がすでにおかしい。気づいた時には体が床に叩きつけられている。体の右側に見えるのは廊下の床だった。盛大に廊下でぶっ倒れたらしい。
ああもう、なんで今日はこんなについてない。
「……っゆき!?」
汐の声が耳に入る。そういえば汐は痛覚が麻痺してる人間だが、確かにこれは痛みはあんまり感じないかもしれない。じんじんするけど、痛いっていうより衝撃感じたくらいじゃん。汐にどんくさいとか痛覚麻痺とか言えねぇ。
後ろでは俺が転んだことで笑いが最骨頂に達したのか、ヒィヒィ腹を抱えて爆笑する連中の声がうるさく響く。おおかた連中の投げたなにかが俺に当たったんだろう。相手は箱川たちだ。この際笑い物にされているのは気にしない。目をつけられないうちに何事もなかったように立ち去らないと。顔でも覚えられたら溜まったもんじゃない。
「おい、何やってんだよ大丈夫かよ」
焦ったような声とともに、自分で起き上がるよりも先に肩にまわった腕が俺を乱暴に起き上がらせた。ずいぶん雑な扱いだが、箱川たちに巻き込まれたのだ。助けられるだけで上等だろう。だいたい箱川たちのグループにもわざわざ手を貸してくれるような人間がいたことが驚きだ。
「大丈夫……邪魔して悪かった」
埃をはたきながら、俺を起き上がらせてくれた人物を見上げて、思わずぽかんと口を開いた。
俺が驚いている間にも、箱川はすっ飛んだ俺のスマホを取りにいってくれている。後ろではまだ嫌な笑い声が途絶えない。
え、箱川?
やっぱりこいつけっこういい奴だったの?
正直、箱川たちはみんなろくでもない連中なのだとばかり思っていた。例えばこんな風に人を助けるような奴には見えなかったし。……まあ、箱川以外の人間はみんな笑ってるけど。
以外だな、なんて思いながら箱川に手を伸ばす。開いた覚えのない画面を見られているような気がした。もし何か変なサイトでも開かれてたら俺の学校生活終わりじゃん。はやくここから立ち去りたい。
「……」
いつまでたっても顔を上げない箱川が驚いたように目を見開いている。俺のスマホを拾ったっきり、食い入るようにその画面を見つめ固まったように動かなくなった。
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