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外に出れば熱い空気がまとわりついた。屋上は目が眩むほどの眩しさだ。
芝生に倒れ込むように寝転がる。誰もいない。邪魔はされないし何をしてもいいような解放感。園田がいないととても静かだった。頭の中をかき回されるような変な緊張感もなければ、無意識に警戒してしまって無駄に疲れることもない。
ただ、静かすぎて怖くなる。ちょっと寂しい。ゲームでもしようかな。でもするならもっかい箱川と共闘したいな。
「……眩し」
目を閉じていても明るさが痛い。腕で目元を覆ってぼぉっとしていれば、時間の感覚がなくなっていく。ちょっと暑いけど、気持ちいい。寝返りを打てば多少、眩しさが軽減された。頬にちくちくとした芝生が当たる。
ふいにだれかから頭を撫でられた感覚がした。まどろみの中にいたからか、それが夢か現か分からない。
「……汐?」
眩しくて目を開くのが面倒くさい。眠いし、気持ちいいし、まぶたが重い。
ふふ、と笑う気配を感じた。薄く目を開いても、明るさに慣れない目では焦点が合わなかった。影が迫ってくる。ひやりとしたものが首筋に触れ、冷気が全身を包んだ。
徐々にはっきりとしてくる視界に映ったのは園田だった。
「……っ」
「相楽くんじゃなくてごめんね」
一重まぶたの切れ長の目を細めて、園田が笑う。ぶわっと顔に熱が集まるのが分かった。うっかり口にした名前は聞かれていたみたいだ。
思わず飛び起きそうになったけど、なぜかうまくいかなかった。寝転がった俺に覆いかぶさるようにして、園田の腕が体に巻き付く。園田の制服はひんやりとしていて、冷たい空気に包まれた。
「ちょ、園田……」
「疲れてんだよねー、ここ最近。ちょっとじっとしてて」
軽い口調で園田が言う。言ってる意味が分からないのは俺の読解力の問題じゃないだろう。緊張で固まったように動かない俺の体に、園田が後ろから抱きしめるようにして腕を回した。息遣いを背後に感じる。
「はぁ……ストレスが消えてく……」
「は、はぁ?」
「志島くんさ、昔飼ってた猫に似てんだよね」
横を向いて寝転がった俺の腰に腕がまわり、それがきゅっときつくなる。唐突すぎて意味がわからない。徐々にじんわりと人肌の温かさを感じて、体は縮こまるばかりだった。強張る俺の肩口に園田が顔を埋める。髪の毛が首筋にあたってくすぐったい。
「全然懐いてくんなくていつも威嚇されてたんだけど、知らない人が家に来ると急にびくびくしながら俺の足元にまとわりついてくんの。すげーかわいかったなぁ」
その猫と俺が似てる……のか?
「似、てる?」
「うん、すごく。相楽には懐いてんのに、俺には怯えちゃってるところとか、すごく」
「いや、そんなこと……相楽、とか関係ないし」
相楽、なんて慣れない呼び方をしたらちょっと声が上ずった。園田が可笑しそうに笑う。
「君しゃべるのも得意じゃないんだから、嘘吐くなんてまだ早いよ」
足の隙間に園田の足が入り込んできた。片足に園田の足が巻き付いてくる。完全に自由を失ったようで動けない。ますます体が強張っていった。
「でもぶっちゃけ知らないままなんだよね」
どんどん頭が真っ白になっていって声が出せない俺に比べて、園田はなんてことないように軽く口を開く。敵意もなにも、感じない。いつも通りの園田だ。
「……何が?」
「志島くんと相楽くんの関係」
「だ、から……何も関係ないって」
「相楽くんとはこういうことするの? あ、友達だったらこれくらいするよね」
これくらいって……これが? 園田にとって俺は友達っていう立ち位置なんだろうか。
「……しない」
「じゃあ友達じゃない?」
「当たり前だろ」
「うーん……同じ中学校とか?」
「……」
間違ってはない。けど何かが根本的に違うような気もする。でもそれを園田の前ではっきりさせてしまうくらいなら他人のままで十分だ。
「相楽くんも謎だからなぁ。あんなに目立つのに誰かと話してるところとか全く見たことないし。かろうじて箱川くんに絡まれてるくらい?」
「……知らない」
「箱川くんとは同じクラスだっけ?」
「うん」
大変だねぇ、と苦笑いとともに園田が吐き出した。箱川は案外普通の男子高校生だ。ちょっと耳に穴が開いてて、ちょっと力が強い。汐がその生贄になるなんてもはや当たり前のような光景だ。今に限ったことではなく、それこそずっとずっと小さな頃から。
「相楽くんは昔からあんななの?」
「ずっとだよ。へらへらへらへら」
「そうなんだ。どのくらい一緒にいるの?」
あれ、ちょっと待て。今ちょっと口が滑ったかもしれない。
流れるように次から次へと、力の抜けた独特な声音で園田が質問を繰り返すもんだから、うっかり思ったままの答えが声に出ていた。
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