汚ない石






リゼンブールは遠く汽車の中で丸一日を過ごして今、小さな町に停車中…寝心地は最悪で令美は気が悪くエドは寝ぼけいた…少佐だけは元気で本など読んで楽しんでる様子
「リゼンブール遠すぎ!どんだけ田舎に住んでんのよ‼︎」
「文句言うんじゃねーよ…仕方ねーだろ本当に田舎なんだから…」


「ドクター・マルコー‼︎」
理不尽な愚痴を言う令美に対してやる気のないエドの返事に令美がまた文句を言おうとした時、少佐が外にいる人に声をかけた
「ドクター・マルコーではありませんか⁉︎中央のアレックス・ルイ・アームストロングであります‼︎」
少佐の知り合いらしいおじさんは少佐を見ると顔色を悪くし返事もせず逃げるように走り出してしまった
「…何あれ」
「知り合いかよ…」
「うむ…中央の錬金術師研究機関にいたかなりやり手の錬金術師だ…錬金術を医療に応用する研究に携わっていたがあの内乱の後行方不明になっていた…」
あんなおじさんでも錬金術師なんだーと呑気に考えていた令美とは違いエドはすぐに汽車に降りて、あのドクター・マルコーに話を聞きに行く言い出した

「…めんどくさいなぁー」
アルを下ろすため先へ行ってしまったエドと少佐の後に令美も続く

「(…でも、もっとめんどうな奴がいるかも…)」




        [ 汚ない石 ]



マルコーは見失ったが、町中の住人に聞けばすぐに見つかった…少佐の似顔絵のおかげだが
ここでは医者で治療には錬金術も使ってるとてもいい医者らしいが…

「そうか…偽名を使ってこんな田舎に隠れ住んでいたのか…」
「でもなんで逃げたんだ?」
「ドクターが行方不明になった時に極秘重要資料も消えたそうだドクターが持ち出したともっぱらのうわさだった…我々を機関の回し者と思ったのかもしれん…」
マルコーの家に向かう途中、少佐から聞いた話をエド達は静かに聞いていた

自分達をよく見ていたストーカーは今は近くにいないみたい令美は探すのをやめた



「…こんにち…わ…」
家に入ろうとした瞬間エドの目の前には銃が…容赦なく撃ってきたマルコー、上手く避けたエド含め全員無事だ
「…えらい挨拶」
体を震わせ混乱状態のマルコーは少佐が止めようにも“戻りたくない”やら“口封じに殺しに来たのか”と訳分からんことばかり言う…しびれを切らした少佐がアルを投げてマルコーを静めた

「私は耐えられなかった…」
自分達が回し者じゃないと分かり、マルコーは静かに話した…東部内乱で自分の研究で作られた物が大量殺戮の道具として使われたのが…無関係な人まで多く殺した
「…私のした事はこの命をもってしてもつぐないきれるものではない…それでもできる限りの事をと…ここで医者をしているのだ…」

「…いったい貴方は何を研究し何を盗み出して逃げたのですか?」

「…賢者の石を作っていた…」

少佐の質問にマルコーは戸惑いながらも答えた…それはエドとアルが必死になって探してるものだった…
「…私が持ち出したのはその研究資料と石だ」
「石を持っているのか⁉︎」

マルコーが取り出したのは小瓶、中には赤い液体…その液体を机の上に流すと液体は丸い固体に変わった

「『哲学者の石』『天上の石』『大エリクシル』『赤きティンクトゥラ』『第五実体』…賢者の石にいくつもの呼び名があるようにその形状は石であることは限らないようだ」
「(コレ…私は触らない方がいいかも)」
プニプニとエドが興味本位で石を触る…令美は本能的に拒絶した

「だがこれはあくまで試験的に作られた物でな…いつ限界が来て使用不要になるかわからん不完全品だ…それでもあの内乱の時、密かに使用され絶大な威力を発揮したよ」

アリスストーンとは違う小さな石に令美は嫌悪感がした、あまり見ないように外を眺める
「マルコーさん!その持ち出した資料を見せてくれないか⁉︎」
「えぇ⁉︎」
エドは賢者の石を完全品にしようと思ったのかマルコーに持ち出した資料を見せてくれるように頼む

「やめなさいよ、そんな汚いの…」
「どうしても見たいんだ‼︎」
令美にとっては歪な石だがエドにとっては賢者の石への大きな一歩だ
「そんな物をどうしようと言うのかねアームストロング少佐この子はいったい…」
「国家錬金術師ですよ」

エドが国家錬金術師であると知ったマルコーは大きく落胆した
「こんな子供まで…潤沢な研究費をはじめとする数々の特権につられて資格をとったのだろうが…なんと愚かな‼︎あの内乱の後人間兵器として己の在り方に耐えられず資格を返上した術師が何人いたことか‼︎それなのに君は…」
「バカなマネだというのはわかってる!それでも‼︎…それでも目的を果たすまでは針のマシロだろうが座り続けなきゃならないんだ‼︎」

エドはマルコーに自分達のことを話した…人体錬成をし、アルのこと、腕のこと…賢者の石を手に入れて元に戻ることも
マルコーは話を聞きエドの優秀さに気づく、完全な賢者の石を作り出せるかもと思うほど…

だが



「資料を見せることはできん!」
「そんな…‼︎」
マルコーはそれでも資料を見せないと言った…元の身体に戻るだけのそれしきのことではダメだと

「あれは見ない方がいいのだ…あれは悪魔の研究だ…

知れば地獄を見る事になる…」

「地獄ならとうに見た!」


「…だめだ…帰ってくれ…」
エドの頼みをマルコーはやはり資料を見せてくれなかった
「…見せる気ないなら最初から話すんじゃないわよ…」
「…」
「おい!令美待て‼︎」
関係ない令美が何故かマルコーに辛口の言葉をはいて出て行ってしまったそれを追うエド達


        ◇◆◇◆◇◆



「本当にいいのか?」
「え?」
令美を筆頭にマルコーの家から出ていき汽車が来るのを駅のホームで待つ間少佐はエドに資料の事をきいた
「資料は見られなかったが石なら力ずくで取り上げる事もできたろうに…」
「あーのどから手が出る位欲しかったよ、マジで‼︎…まぁ誰かさんのせいで諦めざるおえなかったけど…」
マルコーに無理強いするつもりなかったエドは令美の急な行動には驚いたが…あそこを出る口実にはなった

「だって、あのオヤジ“見てはならない”とか言っておきながらペラペラと興味引く話をしだして…だいたい悪魔の研究とか言うくらいなら持ち出さずに捨てれば良かったのよ‼︎」
エドは令美を攻めた訳ではないが…令美は言い訳というか、マルコーの愚痴ともいえる話し…見て分かるほど機嫌が悪い

「…荒れてんな…」
「逃げのびたとか都合の良いこと言うけど、それで人間兵器の“石”を此処に持ってくるのも気にくわないの‼︎」

『……』

エドは驚いていた…まさか令美がそんな事を言うとは思ってなかったから
「…なによ」
令美は気づいてないのか、令美の言った言葉はまるで町の人達を心配してると言ってるようなものだと言うことを

「…なんでもねーよ」
「ニヤニヤして気持ち悪い…私、なんも悪いことしてないから!」
反省する気ゼロの令美がそっぽをむく…エド達は顔を見合わせて笑った…中断された事に誰も怒ってない、嬉しかったのだ

  (ニーナの件、この町での件…

       こいつは…レイミは、案外…)

「…そうだな町の人達の支えを奪ってまで元の身体に戻っても後味悪いだけだよなー」
「そう思うなら私に文句言わないでよ!」
「うるせぇ!…また別の方法さがすさ…な」
「うん!」
令美の不機嫌にも今のエドは笑顔で返事ができた、アルや少佐も嬉しそうだった

「…」

「そう言えば少佐もよかったのかよマルコーさんの事中央に報告しなくてさ」
エドが少佐の事を心配するが、エドも軍人なはずなのだが…制服も着てないし…と令美はエドが本当に軍人か疑う

「我輩が今日会ったのはマウロという、ただの町医者だ」
少佐のついた嘘は軍人としては立派ではないがエド達は嬉しそうに笑った…何も手に入ってないのに

「あーあまた振り出しかぁ…道は長いよ、まったく…」


「君!」
「…マルコーさん」
だが、エドは呼び止められた…マルコーはエドに一つの手紙を渡しに来た
「私の研究資料が隠してある場所だ…真実を知っても後悔しないと言うならこれを見なさい…

そして君なら真実の奥の更なる真実に…」

「(…更なる真実?)」
マルコーが言おうとして止めた言葉の意味は今は誰にも分からないが…その手紙の中に答えがあるのか…
「君達が元の身体に戻れる日が来るのを祈っておるよ…」

涙を流しながら少佐は敬礼、エドは頭を下げてマルコーを見送った…どうして資料を渡してくれる気になったかは分からないけど
「(…優柔不断でムカつくオヤジ…)」
感謝してるエドとは違い令美はやはり気に入らないが…

“国立中央図書館第一分館  ティム・マルコー”

手紙にはそれだけ書いてあった、少しクセのある英文は令美には読めなかった
「(…慣れていかなきゃ)」
「なるほど…『木を隠すには森』か…あそこの蔵書量は半端ないからな…ここに石の手掛かりがある…‼︎」
「兄さん道はまだ続いてる‼︎」
「あぁ‼︎」
本当は今すぐにでも図書館に行きたいのだろうエドは汽車が到着して1番に乗り込んだ
「…石への道ね…」
次の道が出来、瞳を輝かせたエドの後を令美はついていく…

  「(…そういえば、あの変な奴って…)」


      少しの不安を残して…



アカシ-Tsukimi