その一歩を間違えたの
( 隠しきれるとは思ってない…
自分の罪はあまりにも大きいから…
この兄弟との旅が終わるだけ…ただそれだけ
それだけなのに… )
「…なんで“あの時”話さなかったの?」
兄弟と向き合ったのはいいが令美はたまらず聞きたかったことをエドに聞いた…止められなかった…理由が知りたかったから
「…なんの話だ」
「…私が『人殺し』だって話…」
「「‼︎」」
それはエドが査定に気付く前の日…ほとんどの人が寝静まった時間、エドはイズミにだけ令美のことを相談しようとした
『… あいつ…レイミについて相談したいことがあるんです…』
『レイミについて?…なんだエド』
『……実は…
いや、やっぱ…いいです…』
『…そうか?』
『はい…オレ、レイミとちゃんと話してみて…決めます』
令美は2人の様子を部屋から“見てた”…結局エドはイズミにも誰にも言わなかった
『(…なんで言わないの…)』
「…聞いてたのか?」
「…ちょっ…ちょっと待って‼︎なんの話⁉︎どういうこと⁉︎」
エドはアルにも話してなかったのか令美の言葉に驚き、訳わかんなくなってる
「…第五研究所の時、レイミが来た時あいつら…ウロボロスの1人が言ったんだ……」
「…“ あんた、人殺したことあるだろう?”って…」
何も知らないアルにエドが代わりに説明するが…肝心な所が言えないのか…令美が代わりに言ってあげた
「…え…そんな…レイミさんが…そんな…うそだよレイミさんが人殺しなんて…」
「…言っとくけど…“本当”だから」
「「っ‼︎」」
エドにとってあの日の事は気になったが、令美が話すまで待つつもりでいたし…なんて言われようがその時考えればいいと思っていた…まさか本当だとは思いたくなかった
「…あいつが言ったことは真実…
前に言った私の力…一歩、間違えれば人の命なんて簡単に奪えるのがアリス…
私はその一歩を間違えたの…」
だが令美の瞳には
嘘がない
沈黙が続いた…エドもアルも令美の言葉に驚きと戸惑いがあった…そんな2人に令美は…
「……大丈夫」
息を軽く吐いて、令美はなんでも無いように平然を装った
「私、明日出て行くから…旅は抜ける
軍なんかに捕まりたくないし、利用されるなんてまっぴらごめんだし…」
「そんなっ…‼︎レイミさん‼︎」
令美は最初から旅をいつか抜けると思っていた、それは自分の過去が関わってるし…これ以上この力を利用されるのだけは嫌だった
「……私達は仲間でもなんでもない…
だからあんた達は
こんな厄介者、早く追い出した方がいい…」
令美の冷たい別れの挨拶にアルは少し苛立ちを感じていた…アルの中で令美はもう赤の他人じゃない…一緒に旅してきた中で令美のいろいろな事を知って…もう仲間だった…
令美が家に入るため兄弟から背を向ける…きっと令美が家に入ればもう止めることは出来ない…
なのに…アルは令美を止める言葉が出ない
「 オイ、待てよ 」
「…」
でもエドが令美を呼び止めた…
「…“人殺し”?…んなの知ったこっちゃねぇ…
レイミ、今まで通り一緒に来てもらうぜ」
振り返った令美が見たのはエドの強い瞳
「“借り”をまだ返してもらってねーんだよ…
逃げられると思うなよ…レイミ」
「兄さん‼︎」
エドのどうでもいい…だけど令美を止める理由にアルが喜ぶ
「…自分が何言ってるか分かってんの?…私は人殺しで」
「オレ達だって‼︎…同じだろ…
オレ達だって…人を殺した…」
エドは苦しそうに自分の…兄弟の罪を令美と同じだと言った…自分の罪で去ろうとした令美を兄弟の罪で止めるエド…
「(…“同じ”って甘すぎんのよ…)…バカ」
令美は無性にどっかのツンデレを思い出す…全く似てない2人なのに令美は何故か似通ってると思ってしまった
「フン!オメーに言われたくねーよ!…行くぞレイミ」
「そうです…今まで通り行きましょう…レイミさん…‼︎」
「……借りなんてあったっけ?」
(ね、棗…私はあの時あなたの手をつかまなかったけど…
私…今度はこの手をつかんでみようと思う)
もう会えないかもしれない昔の友に届かぬ想いを送る令美、きっと相手はバカにしたような目線を向けて仕方なさそうにため息を吐くだろう…
「…エド、アル…」
令美が残ることになり安心した兄弟はまたいつもの様に戯れあう、そんな2人を令美は呼び…
「…何も言わなかった事…少しは悪かったと思ってる…
ありがと 」
「「……」」
いつも人を見下した笑顔とか生意気な態度の令美が見せたのは少し照れた…でも優しい微笑みだった…
「…そっそーだな!お前は何も言わなすぎる‼︎」
「…そっそーですよ!少しはボクらの事頼ってくれてももも‼︎」
ボンっと軽い爆発して兄弟の動きが壊れたロボットのようになったアルの表情は変わらないがエドの顔は見てわかるぐらい真っ赤で…
「……」
壊れた兄弟はそのまま家に入っていき“遅い!”とイズミに喝を入れられていた…令美の頬が赤く染まった事に気づかずに…
「(…バカ)」