前進のち、桜




     いつかは思い出せないけど

   幼いころの『僕の』記憶と…

            『彼女』の記憶‥





昔、僕はおままごとが好きだった
外で鬼ごっこやドッヂボールするよりも女の子の中にまぎれて遊んでいた
中でもお母さん役が好きでおままごとのおもちゃで料理するのが何だかしっくりきた
普通なら男の僕が入ると自然的にお父さん役とか彼氏役、弟役なのだがませた女の子達から絶賛される程お母さんみたいだと言われてたらしい‥

僕の両親がどちらとも働きだすと家事が苦手だった母がもっと何もしなくなる‥軽い育児放棄の様に見えるかもしれないが、両親はちゃんと僕を愛してくれたし家事を日本の科学に頼っただけだ(冷凍食品とか)

ある日忙しい両親を見て僕は台所に立った‥世の中は便利なものでテレビやスマホ、見たくなくても情報が目に入ってくる

それに何故だか自信があった…両親よりも上手く料理できる自信が…

だけど初めての料理は失敗だらけで…僕は焦げ過ぎた目玉焼きとパン、それにサラダが出来上がった…キッチンはぐちゃぐちゃで味も美味しくないだろうに…だが両親はこれでもかってくらい褒めて喜んで泣いていた‥

不味いはずの僕の料理を両親は美味しそうに食べた…僕はその両親の笑顔が見れてとても嬉しかった


その日の夜だった

夢を見た

夢に出たのは、1人の女性

毎日、女性の人生を夢で見た‥女性は平凡な家庭に生まれて僕の知る時代よりだいぶ昔の暮らしをしていた‥長女の女性は幼い頃から兄弟のお世話や家事の手伝い、毎日大変そうだった

そして若くして結婚、相手の男性は家事などまったくしない人で仕事に生きる人だった‥まあ、仲は良かったみたいだけど

子供が産まれて女性の生活はより一層忙しない‥

子供が成長して、1人、また1人、騒がしかった家から人が出て行く‥子供の成長に嬉しながらも彼女はその度に泣いていて旦那が彼女を支えていた‥

そして、急だった‥

やっとのんびり出来るはずだった彼女は

役目を終えたかのように倒れて‥

そのまま‥亡くなった


その最後を見届けて僕はやっと気づいた

あぁ‥“僕”は“彼女”だ



目を覚まして僕は泣いていた‥なんで泣いているのか分かんなくて、でも止める方法がなくてその日の朝は両親を困らせた,訳がわかんなくて数日部屋に引きこもって両親をもっと困らせて心配させた

怖かった‥彼女が僕だと確信はあったが受け入れたら僕が僕じゃなくなると思ったから‥



         □■□■□■



だけど夢から1週間もすればあの恐怖心はどこへ行ったのか‥そもそも無かったかもしれないと錯覚するほど僕の心は安定した彼女が僕の一部となり生き続けるような‥

彼女と一つになった気がした‥

それが嫌だとも感じなかった



夢の中の彼女はよく台所にいた
料理が好きだったのか彼女は様々なレパートリーで家族や知人からも好評だった
彼女は専業主婦で不自由なくずっと家にいた‥そんな彼女の小さな夢は働くことだった

世界を知りたがっていた

あれから僕の生活が‥いや、僕が変わった‥
小さくて不便な体を上手く使いこなして少しずつ家事をこなしていった
中でも料理の腕は上がる一方で僕は料理するのが好きで、両親の嬉しそうに幸せそうに食べる姿がもっと好き‥彼女と同じだ

小学生高学年の時にはすでにキッチンは僕の城だった‥誰に教わってもないのに料理上手の僕に大雑把な両親は大いに助かったと褒められた‥少しくらい疑ったほうがいいと思うけど‥今では胃袋をガッツリ掴まれた両親は僕のご飯がないと元気出ないと言い出してる



僕は彼女の記憶を自分の前世だったんじゃないかと‥小学生卒業間近の時に勝手に決めた
だって彼女は今も僕の体の一部で…料理や家事が出来るのは有り難かったけど‥性別が違うせいか思い出した後は中々大変な思いをした‥

前世だと決めつければもっと楽になった

前世の自分も今の自分も‥同じ‥


彼女の人生は幸せだった‥だから僕も彼女と同じく幸せな、僕だけの人生を歩いていきたい‥

「‥青道高校‥か‥」

中学3年、受験まっしぐらな僕の現実逃避は勉強によって現実へ引き戻される‥

だけど前世では体験できなかった勉強すらも少し楽しく思ってしまう時がある…



        □■□■□■





桜を見ると桜餅が食べたい

入学式、念願叶って僕は今青道高校の門をくぐることが出来た‥勉強は好きな方だけど受験の時期は少し辛くて大変だった‥けど1番の志望校に合格が出来た

「(‥やっぱり青道にして良かった‥徒歩10分はありがたい)」
青道高校にした1番の理由は近いから、家から徒歩10分にしかも帰り道にスーパーがあるのは夕飯を作る身としてはありがたい

共働きの両親には説得してお陰で私立に通わせてもらってる条件は美味しい料理だ

案内通りに教室へ入りもらった資料に目を通して時間を潰す‥一応地元だけど私立だからか親しい人があまりいない、両親も仕事でいないし‥“夜は外食でお祝いだ!”と張り切ってたから急いで帰る必要もない


「(‥部活は何しようかな‥運動部はムリ)」
野球部が強いらしいけど‥運動は苦手だから僕には関係ない、それより‥

「料理部か‥いいかも」
前世では学校や部活なんてしたことなかったから出来るだけ入りたい、前も今も料理は好きだし部活に入るならこれかな

体験してみて和気あいあいとしてたら入ろうかな‥ガッツリ系はちょっと…

将来は料理に関する仕事がいいけどプロの料理人を目指すほどじゃなくていい‥競い合うのは性格上向いてない


「(見学は明日でいいか‥今日は帰りにスーパーよって桜餅の材料買って帰ろ、両親が帰って来るまで暇だし)」
ぼちぼち学校の事を考えてたのに最後にはいつも料理の事考えちゃう‥程なくして入学式が始まり教室に戻ってからは自己紹介が始まった

「赤堂中学から来ました双葉 千隼です趣味は料理で料理部に入ろうと思っています、1年間よろしくお願いします」

前世を思い出してから女性の仕草が少し出てしまうので気をつけてる‥別に隠す程の事じゃないんだけど‥高校生活始まったばかり変に注目集めたりして学校生活苦しめたくないから‥

自己紹介は無事終わり先生から少し話があって入学式は終わった‥個人がそれぞれ友達と話たり校内を見に行ったり教室に人が減っていく

「んじゃお先ー」
「てめぇっ待て御幸‼︎」
どう見ても元ヤンに見える倉持と珍しい苗字と整った顔立ちで女子から騒がれてた御幸が走って教室を出て行く‥あの2人はこのクラスの中で一番目立っていたな‥

「‥仲がいいな‥」


その季節の珍しい商品は必ず並べてる豊富なスーパーのお陰で両親が帰って来るまで桜餅を作って両親と一緒にお祝いしてもらい桜餅は好評で大満足



「(今日は部活の見学に行こう)」

次の日の放課後、料理部へ出向くと人数は少なくやっぱり男子はいなかった‥でも明るく迎えてくれて雰囲気ものんびりしててすぐに入部した

主な活動としては週に2回、水曜と土曜にテーマに合った料理を作る、週2回もするのは珍しいらしく土曜日の料理は先生方や運動部に差し入れする事が主で時々まれに料理の授業があったりするらしい

「良かった‥いい人達で‥」
体験入部で作ったマフィンを片手に帰宅‥調理部の場所的に野球部のグラウンドの横を通って門を目指す
「‥グラウンド広い‥本当に強いところなんだ‥」


今日の献立は春キャベツが安かったはずだか春キャベツとベーコンの和風パスタ(僕はめんつゆで作るタイプ)に水菜とトマトサラダにココットでいいかな‥ポテトのキッシュでもアリだな‥デザートは‥

野球部の掛け声とボールを打つバット音をBGMに献立を考える‥この時間も僕は結構好きだ‥



          □■□■□■


入部して、1ヶ月たつ頃にはみんなに料理の腕を褒められ異性だからと最初よそよそしかったのが今じゃよく話しかけたられる‥料理の質問が多いけど‥

この間は洋菓子でショートケーキやチョコケーキなどのホールケーキを作った時お店のヤツだと写真を撮り出すみんなには驚いた‥何種類か作って小さいケーキバイキングを楽しみ食べきれなかった分は先生方にお裾分けした、家ではこんな事出来ないから本当に楽しかった

はじめての土曜日は中華がテーマで酢豚に油淋鶏、水餃子入りの中華スープ最後のデザートは王道の杏仁豆腐‥

前世の中心メニューは和食が多くて中華なんてあまり作ったことなく大変いい経験した‥そこから色々な国の料理を試したくなって何日か夕飯が外国料理ばっかだったな‥両親は世界一周してるみたいって喜んでた‥最後は和食を恋しがってたけど‥


「(昼ごはん遅れちゃった‥)」

先生今日にかぎって昼休みに仕事押し付けるなんて‥日直だから仕方ないけど‥もう1人の子が教室に残ってたらもう少し早く解放されてたけどあの子売店組だから授業が終わった途端早々に出て行ったな‥

食堂組と売店組と弁当組に分かれる昼休み事情、僕はもちろん弁当組で、中学生の時から両親の弁当を作ってたからプラス1人分追加することは特別大変なことじゃない

「(‥今日はデザートがあるのに‥)」


昼休みが終わるチャイムが鳴り‥やっぱりデザートは食べれなかった‥上手に出来たのになぁ‥
「(放課後食べるかな‥でも今日は部活がある日だし‥)」
行き場のなくなったデザートに頭を悩ませると時間はあっという間に放課後‥こういう時気楽にデザートを渡せる相手がいないのは最近の悩みだ‥クラスの子とは普通に話せるけど‥急に手作りのお菓子を渡すなんておかしい奴でしかない

「‥なーんか甘い匂いがする」

「え?」

デザートに悩んで部室に行けない僕の近くを通ったメガネの男子がピタリと止まった、目があった

「あぁ、スイーツ男子」

目が合ったと思えば、変な名前で呼ばれた‥僕って“スイーツ男子”って呼ばれてるの?

「御幸ー!何したんだ早く行くぞ‼︎」
「おー、先行っといてー」

変な絡まれ方に僕は動けなくなった、しかもお互い目を逸らさないので何故か僕らは見つめ合ってる‥

春に1番クラスで目立っていた御幸一也、イケメンと呼ばれてる彼は野球部で野球バカ、それに性格に難ありらしく女子がドン引きした同じく野球部である元ヤンの倉持に話かける人はいなく、入学して日が経たない内に2人は仲良く孤立状態

先に出て行った倉持に気にすることなく御幸が僕に近づいてきた
「‥やっぱいつもより甘い匂いがする」
「‥‥‥何?それ‥それにスイーツ男子って」
「だって双葉いっつも甘い匂いしてんじゃん‥時々うまそーな匂いもするけど」
「‥」
犬と話してる気分になる‥そんなに僕匂うのだろうか‥臭くないことを祈る

「‥双葉の近くにいるとお腹空くんだよねー4時限目とかマジ地獄」
「‥‥今もお腹空いてるの?野球部っていっぱい食べないといけないって聞いてるけど」
「そう、練習の後ご飯3杯は死ぬほどキツイけどそのせいでこの時間はお腹空くのよ」

なんか自然なかたちで話すようになってるけど‥これはお腹がすいたってアピールでいいのかな?

「ーこれ、今日のお昼に食べようと思ってた紅茶と抹茶のシフォン‥いる?」
「‥‥甘い?」
「?プレーンは甘いけどこの2つは甘さ控えめだよ」
残りモノであるのは本当だし処理に困ってたしバックの中から二つのシフォンを見せれば御幸は食べ出した‥やっぱりお腹すいてたみたい

「‥‥っ!うまっ‼︎」

「!」
御幸って褒めそーにないのに‥普通に褒めるんだ‥美味しそうに食べてる、瞬殺だけど
「もう無くなっちゃった‥てゆうか本当に料理上手だな」
「ありがと、お腹の足しになったならよかったよ‥僕も無駄にせずにすんだから」
「あー‥今日水曜か‥部活中に調理室からいい匂いすんのマジ地獄」
「なにそれ」
グラウンドと調理室は確かに近いけど料理の匂いするんだ初めて知った、その流れのまま僕らは一緒に行く事になった

「今日は何作んの?」
「今回のテーマは和菓子だからどら焼きと羊羹を作ってみようと思って」
「想像以上のレベル、2つとも店でしか買わねーヤツ」

何がそんなに面白いのかケラケラと笑う御幸、休み時間いつも変なノートと睨めっこしてるのに
「じゃあ僕はこっちだから、部活頑張ってね」
「サンキュー」

あの御幸と話しながら部活へ行くなんて変な感じ‥別れた後、窓の外では御幸が走ってグラウンドへ行っていた‥さっきまでゆっくり歩いてたのに
「(‥僕に合わせてくれたのかな‥)」


        野球頑張ってね、御幸





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