「うん、明日の9時には準備出来てると思う‥大丈夫?」
番号を交換したかいあって明日の予定がスムーズに決められる、御幸がガラゲーだから便利なアプリは使えないんだけどね
「張り切っちゃって20個以上も作っちゃった‥うん、材料全部使って完成した後、数かぞえたら20個超えてたんだ」
合宿期間中は屍みたいになって指一本でも動かすのが辛そうだったけど今は僕の話に笑う元気はあるみたいだ
「うん、じゃあ明日ありがとう‥
うん、おやすみなさい‥」
『‥‥‥おやすみ』
通話が切れ、通話終了になる音を聞きながら御幸の最後の言葉が頭から離れない
この身体に生まれて15年‥
前世では体験できなかった友人と電話して“おやすみなさい”と言うなんて‥
「前世では友達いなかったからな‥」
小さい頃はいたけど‥嫁入りする時地元を離れてそこから友人と呼べる人は出来なかった‥家族がいたから寂しくないって思ってたけど
「‥本当は寂しかったんだな‥少し」
□■□■□■
次の日の朝
朝が早い両親の朝食を出し、お弁当と小腹用のお菓子を持たせて見送った後
差し入れ用のプリン達を保冷バックに詰めていく、この保冷バックは寮の物で持ってきた時に卵と牛乳が入ってた、斜めにならないよう保冷剤と一緒に絶妙なバランスでプリンを入れていく
用意ができた時にタイミングよく家のチャイムが鳴る、時間を見れば9時少し過ぎたころだった
「‥おはよう御幸、倉持
朝早くから呼び出してごめんね」
「おー、はよー」
「おはよ、先輩に怒られるより荷物運びの方が平和だから平気」
少しダルそうな倉持と違って御幸は笑顔で元気そう‥私服ではなくもう部活の練習着に着てる2人を見てもう練習が始まってるかもと焦る
「もしかして試合始まってる?遅かったかな」
「いーや大丈夫、他校の野球部が来るまでアップ中」
「よかったー」
安心して2人を玄関で待っててもらいプリンの入った保冷バックを運ぶ、それとついでにー
「行きより荷物減ったな」
「うん、でもその代わり運ぶのが大変だけど」
「確かに難易度高そー」
量的には片手で楽勝に運べるのだけどプリンなので少し傾いただけでグチャグチャになる‥卵と牛乳運びより難しいので2人に申し訳なく思う
「それとコレ、朝ごはん食べたと思うけどよかったら」
「ん?」
「両親の小腹用にブリトー作ったんだ、具はレタスとトマトに茹でた鳥肉だからさっぱりして食べやすいと思うんだけど‥」
「「‥」」
2人の事だから早く部活に戻りたいと思って手軽に食べられるブリトーを選んだつもりだったけど‥それともいつも両親のついでっていうのがイヤだったかな‥
「‥マジすげー!お前こんなんも作れんのか⁉︎」
「店レベルエグい‥ご両親がわざわざ仕事中断して帰ってくるの少しわかった気がする‥」
よかった‥あんまり気にしてないみたい‥2人はブリトーをペロリと食べてしまった
プリンは寮の冷蔵庫に入れていいとの事で御幸と倉持に寮まで案内される‥もちろん野球部の寮なので部外者はあまり入ってはダメらしい‥特に女子‥‥今回は事情もちゃんと話してあるから僕は入っていい‥と‥
「(‥前世が女ってだけだから‥今は男、今は男、今は男‥)」
ドキドキする胸を抑えながら‥何故か悪い事した気分になった
「え?観客席じゃない場所?」
「そう、他の部員もいるんだけど観客席よりも近いし俺の見事な解説付き〜」
「けっ」
もうすぐで試合が始まるので前と同じ観客席に行こうとしたら御幸に止められた‥御幸の止め方に嫌な顔してる倉持
「野球の事あんまり分からないから解説が付くのは嬉しいよ是非ともお邪魔しようかな」
「ウンチクでうるさかったらシカトしていいからな」
「ちょいちょい」
青道のユニフォームの中で自分だけが制服なのはおかしくて少し恥ずかしいけど練習試合が始まって、分からない事は御幸に解説してもらっていたらまったく気にしなくなり前よりも楽しく観戦できた
「一也‼︎」
試合も終盤に差し掛かった時、怒った感じの力強い‥でも幼さが残る声が御幸を呼んだ
「げっ‥鳴」
「(‥一也って御幸の事か〜)」
失礼だが身長の低い青道のユニフォームじゃない子がコチラへ来て御幸がイヤそーな顔をした‥珍しいものを見た
「ちょっと!なんで挨拶の1つもないわけ⁉︎おいらが来たっていうのにさぁ‼︎」
御幸に声をかけた彼はそれはもう堂々としていてまるで自分が王様なくらいの勢いで話してる
「‥鳴」
『御幸の知り合い?』『みてーだな』‥と、僕と倉持がアイコンタクトで会話している時も御幸がめんどくさそーにしてる、けど声をかけた人物はずっと吠えていた
「何わざわざ自分から挨拶にきたの?」
「一也が悪い‼︎俺の誘い断ってからなんで連絡の一つもよこさないの⁉︎」
「何で連絡しなきゃいけないの」
周りからどんなに注目を集めようと関係なしにキャンキャン吠えてる“鳴”って子が僕にはどんどんチワワに見えて仕方がない‥
何だか長くなりそうだったからお菓子の準備でもしておこ、今日は時間がなかったから手の込んだお菓子じゃないけど‥
「‥おいおい、プリンをあんだけ作ったのにまだあんのか?‥しかも手の込んだ菓子を‥」
「そんなに手の込んだお菓子じゃないよ、混ぜて焼くだけの簡単なレモンケーキだよ倉持も食べる?」
「‥食う」
倉持に一つ渡して僕も一口、甘いんだけどレモンがさっぱりしてて美味しい、サイズもそんなに大きくないから御幸も食べれそう
「なにそれ」
「え」
気づいたらと言っていいのか‥御幸と喋ってた鳴って子が今は僕のお菓子を見つめ‥睨んでる?あれ‥御幸は‥また別の他校生と喋ってる、人気者だなぁ〜
「ねぇなにそれ、なんてケーキなのどこで売ってるのって聞いてんだけど」
「‥‥レモンケーキ‥だよ‥売り物じゃなくて僕が作ったんだ‥」
「‥レモンケーキ‥作った⁉︎」
一切レモンケーキから目を離さず睨んでたから怖かったけど‥この感じだとこの子怒って睨んではないみたい
「‥一つ」
「鳴!双葉にちょっかい出すな、どー見ても野球部じゃないから」
「うるさい一也!そんなの俺だって分かってるよ!」
レモンケーキをあげようとしたら御幸が気づいて助けようとしてくれた‥けど御幸がこの子をチームメイトのところへ行けと言ってもこの子は目的の物が欲しくてたまらないんだろう
「御幸、大丈夫だよ‥
普通のレモンケーキだけど一つどうぞ」
「‼︎」
欲しいと素直に言えないみたいだから僕のほうからレモンケーキを一つ渡せば、不機嫌そうだったその大きな瞳が歓喜の色に変わった
「‥‥っ⁉︎‥うまっ‼︎何コレこんなおいしーの初めて食べた!レモンケーキってこんなにおいしいの⁉︎」
「そんなに喜んでくれて嬉しいよ、ありがとう」
レモンケーキに夢中の彼にもう一つあげればもっと喜んでいて…なんだか前世での我が子を思い出す、自然と頭を撫でてしまった
「なんでこんなおいしーの作れるの⁉︎すごい!」
「んー‥君が野球が好きで上手くなるのと一緒で僕も料理が好きで上手くなった‥かな?」
「なるほどね!分かる‼︎‥あ!俺のことは鳴って呼んでいいよ‼︎」
「僕は双葉 千隼、御幸とは同じクラスで仲良くなったんだ‥鳴はどこのポジションなの?」
「!ピッチャー‼︎」
幼い我が子をお世話するようにお茶出してあげたり口拭いたりと接しても鳴は嫌がることなく反対にご機嫌になり‥これでよかったかな‥と御幸を見ると何故か引いてた‥え
よく見れば鳴と同じユニフォームを着てる人達も驚いてたり‥若干引いてる人もいる‥
え、僕何か悪いことしたかな‥
□■□■□■
『‥おかあさーん‼︎今のーみてたー‼︎』
毎回、自分のプレーが上手くいくと手を目一杯に降ってこちらに眩しい笑顔を見せる幼い少年…昔の記憶…
「(懐かしいなー)」
青空の下、それはそれは元気な子供のように手を振ってる成宮鳴に僕は前世を思い出してほのぼのしながら手を振り返す
「‥いやー、見事に気に入られたねー」
「そう見える?僕はただレモンケーキをあげただけだよ」
未だに信じられない‥みたいな顔で鳴を珍妙な眼で見ている御幸は僕がレモンケーキの話をすると次は不貞腐れた顔になった
「鳴のヤツ、俺のレモンケーキまで食べていきやがって‥」
「あはは、気づいたら全部無くなっててごめんね」
「めっちゃうまかったぞー御幸」
そう、御幸が不機嫌な理由は鳴が御幸の分のレモンケーキを全部食べてしまったから‥こら、御幸を挑発しないの倉持!
不機嫌な御幸とは反対に、1年なのにマウンド?に立って投げてる鳴はご機嫌で三振を取るたびに僕に猛アピールしてる
「そういえば鳴とは中学が一緒だったの?」
「いや、全く」
「じゃあシニアが一緒なのか?」
「全然違う」
顔見知りの御幸と鳴がどこで知り合ったのか純粋に気になって聞いてみれば学校でもなく、倉持が聞いた、シニア(?)ってところでもないみたい
「シニアって何?」
「中学の硬式野球チームだよ、中学校の部活は軟式野球部が主だから硬式をやるなら各地域にあるシニアクラブに入るんだよ」
「へー」
中学の野球部が軟式であることすら知らなかった僕に嫌な顔せず御幸は丁寧に教えてくれる‥ありがたい
「鳴とはシニアの時に試合した対戦チームの投手だったよ、俺が鳴の球打ったから試合終わりにあっちから話かけられて‥そっからよく絡まれるようになったんだよ‥」
「‥そうなんだ‥仲良しだから同じチームだったのかと思った」
「‥‥鳴から稲実に一緒に行こうって誘われたけど俺は青道に行くって決めてたから断った」
「‥‥みんな考えて学校選んでたんだね‥僕は近場だから青道にしただけなんだ‥」
「そんな立派な考えでもないよ?俺も」
御幸の話に僕は少し恥ずかしくなった‥やっぱり御幸みたいに目的があって高校を選ぶ人が多い中、僕は近場ってだけで選んだからな‥
「‥倉持もやっぱり野球のために青道を選んだの?」
「あ?‥あー‥‥俺は‥」
御幸がそうなら倉持も同じだろうけど、聞かずにはいられなくて聞けば何故かもごもごと言いづらそうにする倉持
「‥‥」
「?どうしたの倉持」
「倉持はあれだろ?ヤンキーやってて推薦がなくなったから礼ちゃんにスカウトされたココ(青道)に来るしかなかったんだろ〜」
『‥‥』
僕の質問に黙る倉持に御幸のおふざけ煽り推理が始まる‥だがそのおふざけ推理は‥
「え、当たり?」
「‥なんだかホッとしたよ僕」
「おい、止めろ」
倉持のお陰で心が軽くなったよ
「‥なんだか鳴のチームの人達から見られてる気がする‥」
「‥気のせいじゃねぇーな」
「‥‥てか、稲実だけじゃなくて他の連中からも注目されてね?まぁ、あんなにアピールしてたら事情知らなくても気になるか‥」
初めは前世の母親気分で手を振ってたけど‥ここまで注目されると居心地が悪く逃げ出したくなる‥鳴もうこっちに手を振らないで〜
「まぁ、きっともうすぐ降板だと思うからそれまでの辛抱だな」
「‥本当に?」
御幸の言った通り鳴ではない別の投手に変わり僕は注目されなくなった‥ホッ‥
□■□■□■
「やぁ、注目の的だったね」
「‥はい、先輩達もお疲れ様でした」
試合が終わり僕らは結城先輩達と合流した、すぐにニコニコ笑顔の小湊先輩に鳴の事を揶揄われる、事実だから認めるしかない
「これから昼休憩だ、部員は各自支給される弁当を受け取るんだが監督から今回のプリンのお礼に是非双葉も弁当を食べて欲しいとのことだ」
「え?いいんですか」
朝、両親の弁当やプリンの準備で自分の弁当にまで手が回らなかったからお昼には帰るかなって思ってたけど
「午後からも試合あるんだしお言葉に甘えれば?俺らも試合出る予定だし」
「そーしろよ双葉」
御幸と倉持にも誘われたし、試合もまだ観てたいから監督のご厚意を受け取ることにした
「‥うんそうだね、‥あの、お言葉に甘えていただきます」
「うむ」
「それじゃあ最後にもう一つお願いがあるんだけど」
「え」
それは、またもやニコニコ先輩による断れないお願いだった
□■□■□■
「‥これは‥」
「‥‥小湊先輩の思わくが何なのかわかんなかったけど」
「‥‥やっぱあの人すげーな‥」
昼休憩、僕は御幸達とご飯を食べた後‥とうとう僕のプリンが出される‥が、小湊先輩からお願いされた事‥『僕の作ったプリンを僕が手渡し』‥をしていた
最初何を言ってるのか意味分かんなかったけど逆らえなくて言われた通り弁当を食べた後御幸達とプリンを取りに行き(御幸達はもうその時点でプリンをゲットした)プリンを配ろうと思ったが‥
「‥プリン残ってるねー」
「めっちゃうまいのにな‥まぁそもそも男の手作りの差し入れに手を出すヤツがいねーしな‥めっちゃうまいのに」
「小湊先輩マジすごくね?マネが渡したら瞬殺されんのを見越してわざわざ双葉に配らせるなんてな‥あの人絶対プリン食べたかったんだな‥まぁ美味しいからなー」
見事に小湊先輩の思わくは当たり、僕が差し入れしたプリンよりマネが用意して配ってる果物のほうが断然人気だった(果物は地元の八百屋さんからの差し入れ)
「‥でもプリン残らないかな‥」
ここまで人気がないと反対に心配になった‥これなら小湊先輩には悪いけどマネージャーの人に配ってもらった方が良かったんじゃないかな
「そこは心配すんなって双葉」
「双葉のプリンは残らないから…あの人のおかげで」
「‥⁉︎」
なんだかすごい試合前かってぐらいの恐々としたオーラを放ってコチラに来る‥増子先輩
「‥‥プリン」
「‥あっ!はい!‥‥どうぞ‥」
そういえば増子先輩、プリンが大好きって‥なんでそんなに怖い顔してるの‥何か僕悪いことしたかな‥プリン美味しくなかったら怒るかな…‼︎
増子先輩の恐々としたオーラのせいかみんなが注目する中、後に来た結城先輩と小湊先輩伊佐敷先輩にプリンを渡しつつ増子先輩がプリンを食べるのを待った
『‥‥』
「‥‥‥うがっっ‼︎‼︎」
増子先輩がプリンを食べてリアクションした後何故かプリンは競走するかのようにすぐに無くなってしまった‥なんで!さっきまで人気無かったのに⁉︎全然理解出来ない‼︎
そうしてプリンは僕の不安をよそに数分で無くなってしまった
「うまっ⁉︎何コレうまっ‼︎」
「えっ⁉︎‥すげー、店レベルにうまい‼︎」
数少ないプリンをゲットした部員の皆さん達の反応はどれも良くて嬉しい限りだ
「ご馳走様、御幸達が言う通り想像以上に美味しかったよ」
「本当に実に美味かった、ご馳走様」
「小湊先輩、結城先輩、お口に合って良かったです」
しれっとプリンをゲットしてた先輩達から合格点を貰えて嬉しい
「お前すげえーな‼︎」
「‼︎」
「あんなプリン食べた事ねーぞ‼︎天才だな‼︎」
「超絶美味しいのはわかってるけど、後輩をビビらせちゃ可哀想だよ、純」
ビックリしたのは伊佐敷先輩‥なんかこの間会った時は怖いイメージが強かったから‥でも先輩達の中で1番盛大に褒めてもらえた
「な、言っただろ?すぐ無くなるって」
「御幸‥
うん、いっぱい作って良かったよ‥」
後に御幸から増子先輩のプリン好きは部員みんなが知ってて、尚且つプリンを食べて見たことないほどのいいリアクションだった為、プリン競争が始まったらしい‥みんなよく分かるな〜
まぁ‥でも、プリン残らなくてよかった
□■□■□■
「なにそれ⁉︎プリンなんてきいてない‼︎食べたい!おいらも食べたい‼︎」
午後の試合を観戦するために戻ってきたら稲実の人達がいた、昼休憩の時‥鳴が僕のところに行くのを稲実のチームメイトは阻止したが鳴の我慢は続かず‥一緒に観戦する事になったらしい
僕は一緒に観戦するのはまったく問題ないのですぐ了承したけど…そこでポロリと今日僕がここに居る理由を話してしまったのだ‥
プリンの存在を知った鳴はキャンキャンと小型犬のように荒ぶる‥稲実の人が止めても止まらない‥
「ごめんね‥もう残ってなくて」
「大体、プリンは青道のために双葉が作ってきてくれたんだから、鳴の分なんてあるわけないだろ」
「一也うるさい‼︎」
『‥‥』
プリンの話‥するんじゃなかった‥
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