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04 >> 答えを求めて百千里  [1/1]

この世界の話をしよう、と警戒心丸出しの武将たちをやっとの思いで階下に連れて来たはいいものの、血塗れな歌淋は歩くことすら辛そうで、クナイが刺さったままの傷口からこぼれる朱が一大事を告げている。
そのまま2階にいてと玲魅は言ったのだが、武将の警戒ぶりを気にしてかやんわりと首を振られた。遅れてでも行くから、先に行ってみんなに説明してやれ、と無理矢理小さく微笑みを作る彼女は苦しげに見えて、胸が痛む。


「もう一人の女の子、血塗れだったけど大丈夫なのかい?」


警戒心のせいか、心配を装いつつも決して助けようとしない彼ら。もし大丈夫じゃないと言えば歌淋の事を助けてくれるのだろうか。
いや、それはない、絶対に。
ちらりと歌淋に目を向ければ、血の足跡を付けながらも必死に歩いてくる彼女の姿が目に入る。歌淋の性格上、玲魅や武将たちに見られている事の方が辛いだろう。玲魅は自分の力量に歯痒さを感じた。
救急車を呼ぶにしても、誤解を解いてからでなければ。でも、その間に歌淋が死んでしまったら――!
そこで思考が止まりかけて、ふるふると首を振る。


「大丈夫です、彼女は強いですから」


弱虫な私に比べて。玲魅は自分に言い聞かせるように言った。




居間に入った時の武将たちの反応は様々だったが、未知の世界に警戒する姿は皆一様であった。
とにかく、説明など長々と話をするならば椅子を用意しなければならない。仮にも彼らは名だたる武将だ。敬意は払うべきだろう。しかし居間にある腰掛けはテレビの前に置いてある二人掛けソファーと、ダイニングの椅子が二つだけだ。つまり武将たちが座ってしまうと歌淋と玲魅の座る所がない。

(私はともかく、歌淋は座らせてあげないと……)

どうしたものかと悩めば、この際強引にしてしまおうかと思案が辿り着いた。
二人掛けのソファーに座るようにやんわりとした口調で指示を出す。
一国の主である彼ら(一人は風来坊、一人は忍びであるが)に指示なんて酷く偉そうな身分だと思われたのだろう。軽く睨み付けられて、座る様子を見せなかった。
これは骨が折れるかもしれない。


「座らなくて大丈夫ですか?」
「こんな珍妙なものに座っちまったら、何されるか分かったもんじゃないからな」


伊達の返答を得て、玲魅はそれはそうでしょうねと項垂れた。同時に首についた傷がずきずきと痛んだが、この際構ってられない。


「ではこのまま失礼いたします。私が先にこの世界の事、そして推測を話します。それから、お話を聞かせて頂いても宜しいですか」


慶次さんたちの、と言いかけたが、どうやらドジを踏まずに済んだようだ。まだ彼らは名乗っていない。変に名を呼べば怪しまれる。


「アンタらは誰だ?」
「それはこの世界の話を聞かれたら理解して頂けると思います。自己紹介をしろというなら今すぐにでも行いますがそれをした所で何かあなた方に影響はありますか?皆様方に名乗る意志がないと見えたので私達も名乗るのは後にすべきだと考えました。それにすぐにでも殺せる私達の素性よりも今現在自分たちを囲う世界を知る方が重要だと思うのですがいかがでしょうか」


元親が問うたが、玲魅はすぐさま淡々と言い返した。力で勝てなくても言葉では勝てる。それは自他共に認める能力だ。
その言い分に納得してもらえたのか、それ以上追究する者はいなかった。賢明な判断である。
少しの沈黙を置いてから、玲魅は口を開き、説明を始めた。


先程も言いましたが、ここは戦乱の世ではありません。しかし間違いなく日の本です。今のこの日本は、西洋の文化を取り入れ、和服を着る人々は減少しました。そして電子機器と呼ばれる者が普及しました。……そうですね、絡繰りと呼ぶと分かると思います。高度経済成長という凄まじい科学の発展を経て、私達はすっかり便利な生活を手に入れる事ができました。そして何より、平和……太平の世なのです。
皆様方は見たところ、武器を携えておられますが、私達の国ではそれは禁止されております。銃はもちろん、刃渡りが二寸以上の剣、合口、または刃渡り五寸以上の刀、槍などの所持携帯は禁止です。なぜなら、武器を持つ必要がないからです。これは法律と呼ばれる国の掟によって定められていますので、無許可の場合これを犯す者は誰であれ罰せられます。
そして武器を持っていらっしゃる所から見て推測致します。今太平な日の本にも過去には戦乱の世がありました。群雄割拠の戦国時代がその代表とも言えます。ですから皆様方はその戦国時代から時を越えてやってきた武将たちなのではありませんか?
私の話、推測は以上です。ご清聴、感謝致します。


一同は沈黙に包まれた。まるで狐にでもつままれたかのような、不思議で、尚且つ理解しがたい現状。
とりあえず玲魅は、矛盾なく説明出来たことに安堵していた。彼らの事は知らない前提でいなければならないが、彼らの世界も踏まえて説明しなければ理解し辛いだろう。
実際は時を越えたのではなく次元を越えているし、銃刀法や寸尺もこれであっているのかは正直自信がない。うろ覚えのまま説明せざるを得なかったのだから仕方がない。


「本当の事を言ってるっつー証拠がねぇ」
「そもそもあの女だって武器持ってたしさ。それはどう説明つけんの?」


政宗、佐助が口々に意見を述べた。それは、と玲魅は口ごもるしかない。言いくるめる事はできるだろう。だがそれで彼らが納得していない以上何の解決にもならない。痛々しい沈黙が、居間を包み込んだ。何か言わなければならないと分かっているのに、言葉が出てこない。


「今の話が全部本当だとしたらよ」


その沈黙を破ったのは、元親であった。絡繰りと武器の話の際に複雑な心境を顔色に表し、その隻眼を哀しみに染めていた元親は、苦しそうに息を吐いて問う。


「俺らは、どうやったら帰れるんだ?」


それは少しばかり期待を込めた訊き方であった。



答えを求めて百千里
(他にどうすることもできない)


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2012/08/21
2017/01/16編集


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